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私はぼーっと窓の外を眺め、それから部屋の中を見回した。
マスターは、ひとり暮らしなのかな。
綺麗に掃除はされているようだけどどことなく雑然とした感じが、なんとなく男性のひとり暮らしを思わせて、私は何故か少し安堵する。
あ、だけど、祐輔さんさっきカンヴァスもスケッチブックもこの部屋とは違う場所から持ってきたようだった。
一緒に住んでるの?
…もしかして、琴里さんも?
「あ、動いてもらっていいよ」
スケッチブックに一心に描きながら祐輔さんが呟くように言う。
「ねえ、祐輔さんはここに住んでるの?」
集中している祐輔さんに答えを期待するわけでもなく、私は何となく訊いてみる。
祐輔さんは少し顔を上げ、かぶりを振った。
「オレは姉ちゃんと一緒にこの近所に住んでるよ。
ここは壱弥さんが今はひとりで暮らしてる」
「そうなんだ…」
私は立ち上がり、窓の方へ歩み寄った。
出窓の側面が開けられていて、爽やかな風が入ってくる。
風に翻るレースのカーテンに阻まれてよく見えないけど、出窓の前に写真立てが飾ってあるようだ。
私はソファに膝をついて乗り、写真立てを手に取る。
少し色褪せた写真には、幸せそうに笑う男女が写っていた。
今よりちょっと若いマスターが、細い女性の肩を抱いて明るい笑顔を見せている。
女性はマスターに身を寄せ、微笑んでいた。
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