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祐輔さんの学力は、本人の申告通り結構酷かった。
中学生の参考書から揃えなければならない教科もあって、私は最初は正直なところ不安を禁じ得なかった。
しかし、それは今まで殆どまともに机に向かったことが無いから(どういう学生だったのかは大体想像がつく)で、祐輔さんは本人が言うほど馬鹿でもなければ理解力がないわけでもなかった。
宿題を出せば一応ちゃんとやってあるし、日が経つにつれて自分でも先に進めていることが多くなってきた。
勉強と並行して、絵のモデルの方も始まっていた。
マスターの厚意で2階の住居を解放してもらえることになり(しかし、絵が置いてある小部屋の方に二人で籠ることは絶対ダメ!とマスターに厳命された。どうしてだろう)、祐輔さんと私の都合の合う時には紫陽花の2階のリビングで過ごした。
絵に関する祐輔さんの集中力はすさまじく、私は何時間も同じポーズを取っているのに飽きてしまって、ぼんやりと外を眺めたりしていると、祐輔さんはカンヴァスから顔を上げてニコッと笑う。
「あ、退屈?
別に動いてもらって構わないよ、イメージをもらえればいいんだ」
その言葉に甘えて、私は鉛筆を持ってスケッチブックに向かうことした。
青空を背に立つ灯台ではない、私が今、本当に描きたいもの。
それはなんだろう。
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