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1.嵐の中の出会い(1)
「あれ?なんだろ?」
ナツコはなんだか急に自分のまわりが寒くなった気がした。
今日はあたたかくて、校庭で遊んでいてもすぐに汗ばむほどだったのに……と思っていると、ななめ上からいなびかり、そして雷鳴があった。
思わず空を見上げると、小学校を出たときにはあんなに晴れていた空が、いつのまにかまっくろな雲におおわれて、冷たい風、雨もふりだしてきた。しかも、よく見ると、その雲の下には、なにやら空気がうねうねと黒いうずをまきだしている。
「たつまきだ!」
たつまきというものを実際に見るのは小学五年生のナツコにとって初めてのことだった。しかし、それがどういうものかぐらいは、テレビの映像などで見て知っている。人間がまきこまれてはひとたまりもないというぐらいの知識はあった。
ナツコがおどろきながら見つめているわずかのうちにも、その黒い空気のうずはぐんぐん大きくなっていき、しかもわるいことにこちらに向かってきている。
(あぶない!)
雨と風がすっかりひどくなってしまったなか、少女は一本道をただがむしゃらに走って逃げはじめた。
いま、ナツコはひとりで明神ヶ池そばの道を通って下校中だった。まわりに人のすがたは見えない。
この道は通学路ではあるが、ふだんは人通りがすくないのだ。
いつもの登下校では、だいたいこどもはグループになって行動するし、安全のため見はりに立っているおとなの人もいるので安心して通ることができるが、今日のナツコは図書委員会の仕事があったのでおそくなり、ひとりだった。
(ああ、こんなことなら早川先生の注意を聞いて、ちょっとぐらい遠回りでも、上の方の道をとおって帰ればよかった)
ナツコははげしく後悔したが、もうおそい。たつまきはすぐ近くにまでせまってきている。
(……あれ、なんだろ?)
必死に走りながら後ろをふりかえったナツコは、そのせまりくるたつまきのうずの中に、時々なにやら、ちらちらのぞくものがあることに気づいた。
金と銀、そして黒色の、なにか太く長いものが、たつまきのなかでぶつかりあっている。
(なんだろ?まるでなにかのシッポみたい)
しかし、今の少女には、それがなになのかと冷静にかんがえる余裕などなかった。なんといっても、いのちの危険がせまっているのだ。
ナツコは前を向いて必死に逃げたが、たつまきというものは思ったよりものすごく速かった。つぎにふりかえったときには、うずはもう目の前にせまってきていて、次の瞬間には
「きゃっ!」
少女は、のみこまれてしまった。
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