不意打ち

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不意打ち

やっと決まった。オメガから脱却できる日が。 この日をどれだけ待ち望んでいたか。 アルファ オメガ ベータこの三種で区分された世界で、自分自身がオメガとして生をうけたことに 物ごころついたころから、 絶望していた。 母親は、製薬会社の研究員でベータ 父親も、大学で経済学の教鞭をとるベータ。 二人の子供から生まれてきた自分だけがオメガ。 しかし、両親は決して、子供がオメガだからといって特別な育て方をせずに、淡々とまるで、そこに性差なんてものはないように、育ててくれた。 しかし、思春期にさしかかり、ヒートという特別な発情期を起こす時期になると、いやがおうにも、自分自身でその性別を呪いたくもなる。 その時が来たのが15歳。 ヒートのせいで、アルファとSEX することしか考えられない、オメガにはなりたくない。 3ヶ月に一度くるヒートは、薬の力を借りれば、やり過ごせそうな程度のもので安堵したが、それと同時に煩わしさが襲ってきた。こんなものさえなければ、もっとアルファより勉強の時間もとれ、成績も上がるはずなのに。 自分は、機械工学を学ぶためにアメリカに留学するのだ。こんな下らないもののためにその夢を諦めるのなんてあり得ない! 夢の実現のためにまずは、高校選びをするときアメリカの留学や推薦に力をいれている高校を選んだ。 そして、そこに入るために必死で勉強し都内の有名男子校に合格をはたした。 入学当初は、生徒会のメンバーがみんな旧財閥系の嫡男や、どこそこホールディングス跡取り息子で、みんな稀にみるアルファばかりが揃っていて、お近づきになりたいだの、眼をかけてもらいたいなどといった話を他人事のように聞いていた。 そんな、浮き足だつオメガとかは一切関わらず、自分がオメガ性だということさえ言わなければ、凡庸な見た目なためベータだと偽ってもなんの問題もないことに感謝しながら、高校生活はスタートし、早一年が経過したある日、人生を変える吉報が舞い込んできたのだ。 「バース性適合手術の受付を開始」 オメガ性をベータ性にするための手術。 オメガがもつ妊娠、生殖機能を除去しヒートがこなくなる手術の一般適用が開始されたのだ。これによりオメガほぼ、ベータと変わらない生活が営めるというもの。こんな素晴らしい手術をうけないはずがない。 両親に早速相談をして、適合手術をうけれるように国に申請を出すことにした。これが認められれば国の認可の降りた病院で手術をうけられる。 但しそのためには2つの絶対条件がある。 ① うなじを噛まれていないこと ② 妊娠していないこと且つ妊娠経験がないもの 共にクリアしているため申請の認可が降りるには時間はかからなかったが、希望者が多いために、手術の順番が一年後になってしまった。 これから、一年後気をつけて生活すれば、自由が手に入る。今までになく高揚した気分で高2の一学期は終了した。 高校生活でよかったことは、いい友人ができたことだ。 あまり社交的ではない自分が、心を許せる友達が一人とはいえできたのだ。彼の名は、井上君。彼は志しが似ていて、機械いじりのすきなところも共通していて話していて楽しい。性別に関係なく誰でも分け隔てない接し方なのも好感がもてた。しかも、なかなか顔立ちも整っているようで、学校のオメガからの評判はいいようだ。 そんな井上君は、由緒ある家柄らしいのだか、その話をしたがらないので、あえて聞かずに今までに過ごしてきたのだが、高2の夏休み明けに井上君のお宅にお邪魔することがあった。 あまりに大きな木造の平屋。門から玄関までちょっとした散歩の気分だ。 井上君に大きいねーと感嘆の声をもらすと 淡々と「まぁ、祖父母の代からの家で、大したことのない古いだけの家だよ」と返ってきた。 そこで、彼から思いがけない話を聞くことになった。 彼はアルファで、今までに無理やり番にさせられそうになったりオメガにはいい印象がない。 これから先、井上の家のことを思うとそれなりのオメガと番にならなくてはいけない。将来不安だと、今までになく落ち込む井上君の姿を見ることになった。 そこまで、落ち込んでいる彼を目の前にして、自分も何か力になれないかと思ったときに、 思わず自分がオメガで、バース性適合手術を受ける話をしてしまった。 井上君は、その話きくやいなや、こう言ってきた。 「二十歳まで、番のふりをしてくれ。そうじゃないと家の決めたオメガと番にならなきゃならない」そしてこう続けた。 "二十歳になるまででいい。過ぎたら解消してくれてかまわない" その代わり手術を受ける来年まで、他のアルファから身を守ってあげると、囁くよう乞われた。 自分のうなじを守るために、偽りの番契約をするのは気が進まないが、井上君と自分のうなじ両方を守れるのであれば偽の番契約もやむ終えぬ。 一応その時は了承して一旦帰宅した。 その後、井上君のご両親が弁護士を連れて、うちにやってきた。 そしてこう言った 「直也が我が儘言ったようで、二十歳になるまで、誰とも番にはなりたくないと昔から言ってました。私達もなるべく、直也の気持ちを尊重するために、あなたと、偽の番の契約結ばせて頂きたいのです」 そして、その契約書には二十歳になったら 双方の合意のもと番契約を解除できる旨が明記されていた。 そんな、刺激的な事柄あったにもかかわらず その後の井上君との間柄は、特に変わらず 友人関係のまま恙無く日々はすぎ、一年後の性適合手術の日を迎え、オメガからベータへと無事に手術は成功した。 そして、高校生活もあとわずかとなった高3の2月に 夢であったアメリカの大学の留学も決まり、井上君は、国内で一番の国立大学へと進学が決定した。 これで、井上君と僕の間には、偽りの番契約以外の共通点がなくなると思えた。 そして、渡米して一年後アパートに一通の手紙が届く。 井上家の顧問弁護士事務所の封筒で。 そしてそこには恐ろしい内容が記載されていた。 笹木野 人吉様 当主である井上直也から以前交わした契約書について二十歳を機に番解消に関しまして 井上直也は、 番解消を、希望をしておりません。 つきましては、双方の合意の上がなりたちませんので 笹木野様が番の解消をご希望の場合は、一度話し合いの場をもうけさせて頂きたいのです。 至急お返事いただけないでしょうか? あー、神様。一体井上君は ただ単純に二十歳が短すぎるから、もう少し偽の番契約を、続けて欲しいということなのだろうか。だとしたら、いったい何歳まで続ければ気が済むのだろうか?それとも他に理由が?
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