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俺を一人にしないでくれ
今ベッドの中にいるんだ
お前がいないと
高いワインだって、苦いよ
月を見ていると、
お前を思い出して
胸が、痛いよ
だから早く来てくれないか
ホテルはニューブルースカイ
部屋はいつもの704
合言葉はいらないだろう
ノックを3回してくれれば
お前だって解るから
お前を待っているから
ミキ、愛しているよ
【とんだ間違い】
と、こんなメッセージが携帯の留守番サービスに入っていて、三木は眉をしかめた。
声の主は酷く色っぽい。
低音で独特の音色のそれは、特定の女に囁くとき、こんなにも甘く薫るのか、と感嘆する。
うーん、と唸って着信履歴のページからその番号にリダイヤルしてみる。
なんと、圏外もしくは電源が入っていないじゃないか。きっとこの声の持ち主は相当の自信家で、こうしておけばNOは言えない、YESは行動で示すだけ、なんたる美しい罠なのか。とは言っても、声の主はよく知っている男だ。またしても、唸る。このとんだ間違いをどう伝えようか。きっと彼はホテルにも電話を部屋に繋がないように通達しているだろうし、女にかけたと思っているあの人が今夜一晩無駄に過ごすのかと思うと、後で怖いなあ、と思う。うーん、ともう一度唸るとちんちろりんに興じていた事務所の連中が難しい顔の三木に気がついた。
「若頭どうしたんすか、クソですか」
「いや、そうじゃねえんだ。くみちょ…いやいや社長がな、マブと間違えて俺に電話したみたいなんだ。連絡しようにも電話はつながらねえし、参ったなあ」
「ああ、そういやくみ…いやいや社長、最近電話機変えたって言ってたもんな。ミキちゃんでしたっけ、あの女子大生。みき、って平仮名でいれてたからどっちがどっちか解んなくなったんだな、きっと。社長なんて言ってたんすか」
「うーん、愛してるよってな」
わはは、と周囲が笑った。三木は少し控えめに笑う。
角刈りのいかつい顔面、金ネックレス、それでもって今時ブラックスーツに紫のネルシャツ。
三木は真面目なのである。真面目といっても根が真面目、やくざを真面目にやっている。
ここら辺でいいかな、という事ができない。
35歳と言えばもうちょっぴり若さがあってもいいと思うがそんなことは三木に関係ない。
硬派である。実はゲイだが、ゲイという今時な名前も彼は似合わない。
男色趣味、と言ってもらいたい。この業界はそういう奴も結構いて、三木の初めては刑務所だった。
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