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そいつがまた好色な男で三木を掘ったが、掘られたがりもした。
それで目覚めた。
今では掘られるより掘る側が多い。その男とは娑婆に出てからも縁があったが、しばらくすると若い美少年に目をつけて、ガタイのイカツイ三木とは次第に疎遠になった。
今でも仕事では会ったりするが、そういう関係はご無沙汰である。年上の男が初めてだったせいで、三木は年上の男にしか発情できない。
社長、もしくは組長、名前は早川、はっきり言ってタイプである。間違い電話、最初は思わずまさか俺が変な目で年中尻を見ていたのを知ってか、と思ったが早川は女に目がないド・ノーマルだ。
ロリコン趣味だし、男には興味がない。最後のミキ、でああ、あのタレ目、ぽっちゃり童顔女か、と解ってうーん、と唸った。
「しょうがねえ、ホテルまで行ってくる」
「社長、びっくりするでしょうね、後で話聞かせてくださいよ」
「ああ、野郎の体なんて真っ平だがあの人に恥かかせちゃあ、ならねえよな」
燻し銀、ニヤリと笑う三木はオットコマエだった。男色趣味はおいそれと話せば何かと不便だから男を漁るときはそれなりに気を使い、二時間車で走った隣県まで出かける。そこでアパートも借りる念の入れようだ。組の連中は女を買わない三木を、どう見ているか。心底惚れた女が隣県にいて、そいつの為に商売女を抱かない。今時の奴には珍しい純な男だと思っている。とことん間違っているが、それはいい間違いだ。だから三木は35の若さで若頭だ。顔でいうなら不惑であるが。
早川コーポレーションは、建築業だ。やくざの事務所然とした場所ではいまいち商売が儲からない。そこで面々の顔形は変えられないが事務所の改築は簡単なので、一年前から早川組から早川コーポレーションに名前を変えて、普通のオフィス顔負けの職場になった。喫煙だってクリーンルームに行かねば吸えない。組長は社長、若頭は副社長、しかしいまだに頭が硬いか悪いかのどちらかである面々は三木を若頭と呼ぶ。組長だけは、怒られるので社長と呼んでいた。やり手の男だ。今年50才になるが色と金には滅法強くてその上とってもいい男。仕事での付き合いがなければ一発駄目元でお願いしている。
(まあ、今晩のおかずに組長のポン刀でも見られれば恩の字かしらん)
なんて仏頂面で事務所を出て行く三木が、こんな下世話なことを考えているなんて知られたら、一巻のお終いだ。
ホテルニューブルースカイは駅チカで、部屋が広いと噂の高級ホテルだ。険しい顔をして三木はホテルを見上げた。ここにはロビーしか入ったことがない。シンプルで品格のある調度品がなるほど早川好みだと思う。フロントをスルーしてエレベーターに乗り込む。浮いているのは仕方がない。こう見えても人見知りをする性質だ、だから唇がへの字になるし、サングラスも照れ隠しにしてみる。威嚇するように背中を曲げてのしのし歩く。そうしたら、立派なヒットマンに見えるから、不審者に皆がひきまくる。そんなことおかまいなし、ついたのは7階、こんな所へ母ちゃんと父ちゃんを招待したら喜ぶだろうか。色気のないことを思いながらとうとう目的地にたどり着く。
コン、コン、コン、ノックを3回。男の声がして扉が開いた。
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