5 逃走

33/33
32人が本棚に入れています
本棚に追加
/829ページ
スマホに着信が……海外から……クライアントか? 「おい、許進軍! ウチの嫁ちゃんに舐めた真似すんなよ。お前、このまま東京湾に浮かぶのと一市民として日本人に成りすまして生きながらえるのと、どっちがいい? いまなら選ばせてやるよ。俺は慈悲深いからな! 言って置くぞ!俺はお前をいつでも監視している。 昨日、お前がホテルに呼んだデリヘル嬢の名前は咲ちゃんだ21歳お嬢様タイプ、威勢がいいわりに彼女に責められて、右手だけで、3分24秒で天国行だ。彼女もずいぶん楽な仕事で助かったってよ……随分かわいい声で鳴くんだな、ハハハハハ! お母さんは病気で大変だな。八王子の病院に行くのも難儀してるじゃねえか? 外科は毎月第三月曜日10時の予約だ。今度ご挨拶に伺わないとな。共同住宅の304号室に。ああ、安心しろ毎日の就寝時間の20時までには帰るようにするよ。 妹は岡山で日本人と結婚してつつましく暮らしてるな。妹の旦那さんは地元の中小企業の工場でライン工か。立ち仕事は大変だな。頑張って車の部品作れって伝言頼む。 姪御さんは7歳で可愛い盛りじゃないか2年3組出席番号12番いつも元気に挨拶できてるぞ。 小さい時に行方知れずの福建省の父ちゃんはどうした?広東省で新しい奥さん貰ってお前なんかのことはすっかり忘却だ。どうする?一緒に暮らせるようにしようか? お前、相手が悪すぎたよ。俺の組織(バック)は国家だ。お前が相手するにはでかすぎる、悪いようにはしないから、今のうちに手を引け……わかったな?今なら無かった事にしてやる。俺にはそれが出来るから……いいな? 隣のちびっこ、李建国32歳にも行っておけ、ふざけた真似すると、嫁ちゃんの前にお前が海に沈む番だってな。それと、福建省の父ちゃん母ちゃんと弟によろしく言って置いてやるぞ。 ああ、最後にお前の目の前のグローブボックスを開けろ。茶封筒にプレゼントがある」 そいつは、それだけ言うと一方的に電話を切った。 「大哥(アニキ)? 説シェンマ?」 「参ったな……鉄砲の弾だ」 キャンセルするか……奴の言う通り、相手が悪すぎたようだ。全て知っている、これはほんの一握りだってことだろう。 俺は助手席のシートに身を深く埋めて目を瞑った。
/829ページ

最初のコメントを投稿しよう!