東の国の王の側室、西の国の王子の好奇心

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「彼はアイダ・スムラ・イ。彼は私に仕える者の中でも、特に忠実な家系の一族の一人でね。君を決して裏切らないよ。どうだい、テオ。医学を学びたいというのなら、彼はこれほどとない従者だよ」 そう、王が言うと、背の高い青年はにこり、としてアイダに手を差し伸べた。西の国の挨拶らしい。 「やあ、アイダ。僕はテト。テト・ドルタ・ガ・ミヌス。名前の通り西の国の王族だけれど、平民に近しい王子だからテト・ドルタでいいよ」 アイダはその青年をすぐさま気に入った。アイダは今、二十二だ。少し年上の彼は王族や貴族達の高貴と高飛車をはき違えた態度をとらなかったし、頭も良かった。どうして医学を学ぼうと思ったのか聞くと、医学と言うより、医薬なんだけども、と笑った。 「君の国は麻酔や、人体によく効く薬が沢山あるだろう?僕の所はまだ、占い師が病気を治すと信じられたり、血が汚れると言って輸血をしないで死ぬ者が多い。医者もね、ここの国からやってきた医者や、南の国の医療の機械を使う事が多くて、医者にかかれるのは金持ちだけだよ。僕達の国は君達の国の寿命より20年は短い大人たちが沢山いるんだ。僕の母も幼い時に死んでしまってね。それも僕が王宮に引き取られた後、医者にかかるのを拒んで占い師に祈祷してもらった。結果は…言わなくても解るよね?だから、って言うのもあるけど。結局忘れられないのさ」 「忘れられない?」 そう言うと、テトは人の良い顔を歪めた。 「医薬って、素晴らしいことだと思わないかい」 で、その話は終わりになった。アイダは少しだけ、テオに不安を抱く。 薬は、毒だ。 毒とは、薬にもなる。 両極端の物は、実は同じだったりする。 それを使う用途、使う人間で、変わるのだ。 だが、テトはそれから一度も、アイダが不安になったあの表情を浮かべる事はなかった。三年の間、テトは大変優秀だった。アイダの母に薬の調合を習い、アイダの師を敬い、アイダの父が長を務める王宮の図書館で、長時間熱心に学んでいた。彼が特に興味を持っていたのは、麻酔学だ。どこまでの薬を与えれば、意識があるままで痛みを取り除けるのか、どの量で何時間、意識をなくすのか。そう言った事をテオは教えてもらった事を逐一、書き漏らさずに膨大な手帳に書き、修めていく。 「手術も、興味があるけれど。もっともよくあるのは怪我をした人間を縫ったりすることだからね。痛みで死ぬ者がいないように。僕の国はまだまだ戦争が多いしね。それに、手術をする医者は来るが、麻酔や薬が出来るものは余り来ない。賃金も安いしね。だから僕はこれを広めて、より良い国になるお手伝いをしたいのさ」 アイダは素晴らしい考えです。とテオの考えに素直に賛辞を贈った。しかし、ふと思った。 (いくらテトが素晴らしい考えの持ち主だとしても。王宮の医学をほかの国に渡してしまっても良いのか。王様とテトは仲が良いが。それは、別の問題なのではないか) その答えを、テトがアイダに言ったことがある。 「僕と西の国の王様はね、とても仲良しなんだよ。僕の母さんは平民の出で、王宮にも行けない女性だったから、街の外れに家を一軒買ってもらって住んでいたんだ。ある時から、父さんがお忍びで来た西の国の王様と会談するのに都合がいいって気づいたのかな?ともかくそこで会う事が何度か会ったんだ。その時に西の国の王様が医薬、についてお話くださったのさ。それが僕は忘れられなくて。それで王様に頼んでね、修行できることになったんだよ」 「それは素晴らしい事ですね」 「うん、そうなんだ。僕はね、やりたいことがあるんだ」 「やりたいこと?」 「うん、それはね」 と、一旦言葉を切って、答えた。 そしてあの、アイダが不安に思うような顔を、久しぶりに見せた。 「大切な人を傷つけないで、保管すること」 それが、三日前だ。なぜこんな話を聞いたのかと言うと、テトが久しぶりに帰ると言う。
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