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その頃になると、東の国から側室が来る、というお達しが王宮の中で広まった。お針子の姉は大忙しで大量のシーツや、カーテンを縫い始めている。だけど、と姉が夕食の際に言った。
「不思議な事にね、側室の方のお召しになる物のお達しはないの」
すると兄がチーズをアイダの皿から盗みながら言う。
「そうそう、変と言えば。普通なら他の国からのお姫様が来るならば、沢山の護衛が他の国からやってくる。けれども彼らはな、姫様を置いたらとっととお帰りになるそうだ。ひどい話だ」
と言えば、父が難しい顔をして本をめくりながら難しい顔をする。
「だがなあ。おかしいのだよ。東の国の王族で、年頃の娘は三人、それから十にならぬ娘が四人。だけれど年頃の娘は皆、婚約者がいるはずなのだよ」
と、首を傾げている父に母がぽつり、と言った。
「側室の方のね、お名前も、年齢も教えてくださらないの。年頃の娘さんか幼い娘という違いだけでも教えていただきたいのだけれど。薬師をすぐになんでも作れる魔法使いだと思っているのかしら。……それとも、東の国から薬師が来るのかしら」
そして、今日。
アイダとテトは、最後の別れを、安い定食屋で昼食をとりながらしている訳だった。寂しくなる、と言ったアイダに、テトはそんなに長い間ではないのさ。と返す。
驚いてアイダがテトを見ると、自分の皿に乗った最後の牛肉を一切れ頬ばりながら、言った。
「一月後、会えるよ。君も王宮に戻るんだろう?王族としてさ、こちらに来るんだ」
「どうして言ってくれなかったのですか。てっきりもう会えないかと」
「寂しいかい、アイダ」
「それはそうですよ。三年一緒にいたのに。寂しくない訳がないでしょう」
そう言うと、テトは人の良い顔で笑った。
「ありがとう、また会おう」
そう言って、手を差し出した。
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