東の国の王の側室、西の国の王子の好奇心

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最初に会った時だけ。 悲しい事に、彼は誰も愛していなかった。 争いを好む男だった。 でもね、ここの王は違うんだよ。僕の父を愛したんだ。 だけど僕の父はそんなこと理解できる人じゃない。 だから、あの人は、医薬を使った。良い、悪いじゃない。やったのさ。 僕の父はあどけない目をしていた、まどろんでいた。 「あの人は言ったのさ。僕の父が一番可愛いのは、こういう時なんだ、と」 そう言うテトの声を聴きながら、アイダは自分の手が痺れているのに気が付いた。だが、テトはそれに触れずに、楽しそうに話を続ける。 僕の父は、元々頭痛持ちでね。 僕らの国の薬より、東の国の薬がよく効く。元々親しくしていたせいもあるのか、父は二人きりで会うのならば、薬を調合してあげようというあの人の話を信じ、治療と称して行われた淫らな行為に気が付かなかった。 そればかりか、治療の後は寝ざめもいい、と言うのだ。 おかしいなあ。 威厳のある父が、意識がないまぜになる。 すると、うっとりとした目をするんだ。これから、皿に乗って食べられる肉のようだというのに。 あの人は、父が身に着けている物を全て取り外すんだ。 衣服よりも先に、王としての父、戦士としての父、そして僕の父としての父。 あの人の美しい唇が、父の男らしい引き締まった体に触れると、父はなぜかにこり、と笑うんだ。なぜかは知らない。そして、すべてを裸にしてしまうと、ゆっくりと時間をかけてあの人は父を愛してくれるんだ。 でも、段々つまらなくなると、あの人は言った。 なぜならあの人が愛した父は、素直で可愛い赤子のような父ではないから。 傲慢で、辛辣な父。 豪放で、愛する事なく肉欲の為だけに、召使だった母を抱いて、大事にしなかった父。 僕を他の兄弟が死んだ時のスペアとしか思わなかった父。 それでもなぜか、僕は父の事が嫌いになれなかったし、あの人は、そんな父が好きだった。でも、今使われている麻酔では、それができないんだ。 意識を混濁させたり、眠らせたりすることは可能だけど。 でも、あの人はね。 その先を見たかったのさ。 父の心のままで、愛してみたくなった。 だから、あの人に僕は言ったよ。 僕はその事に興味があったから。 僕があなたが本当に愛している、生身の感情を持った父を保存できる薬を作ってみたいってね。 それからあの人と僕は共犯になった。僕はこの国で薬を作る。それをもってあの人は父の所へ行く。 今の麻酔はね、使い方を間違えると中毒になる。痛みは消えるけど、依存する危険もある。麻薬だよ。 そう、君達が作った麻酔薬と言うのは、毒なんだ。 それをずっと服用させるのは、とても危険なこと。 でもね、それを悪意を持って、誰かに渡したらどうかな?例えば、僕の二人の兄さん。心地の良くなるものだと言って、薬を渡した。
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