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だから、今では僕のいう事を聞く。例え、今一回の快楽と引き換えに、国を売っても今の彼らはなにも感じないだろう。
薬で死んだように眠った父を、亡骸だと偽る片棒を担がせても、彼等はどこ吹く風だった。
今日使った男達はどうするか……お金で解決できるといいんだけれど。
僕はね、南の国の医療の機器を改良した。空気と薬を圧縮し、熟成させ、霧に変えるんだ。
その薬もね、麻薬の成分を抽出して、毒の成分を抜いたものなんだ。だから、今までの麻薬を使った麻酔ではないんだ。
しかも体に悪影響をさほど及ぼさない。意識を持たせたまま、体の感覚がなくなるという事もできるし、従来の麻酔薬の使い方もできる。
おまけにね、毒と薬は一対だ。殺すこともできるし、生かすこともできる。
麻薬も僕は随分学んだよ。だって、ここの人たちはみな善良だから、良い薬の筈の麻酔薬を改良して、悪魔の薬を作ろう、なんてこれっぽっちも考えていやしないのだ。
だから、とっても、楽しかった。
僕の幼い時、胸を打った父の子供のような姿を見てから随分と経ったけれど、あの時の芽がここまで育ったんだ。
どうしてだか、とても気になった、あの時の感情が、ここまで僕を育てたし、僕が麻酔薬の進歩を助けた。とても素晴らしいと思わないかい?アイダ。
君の事、とっても好きさ。
僕の事を理解してくれるし、僕も君の事を理解してるつもりだよ。
ねえ、アイダ。
僕は今、一つの薬みたいなもんだよ。
悪くもなれるし、良くもなれる。
一緒に、西の国へおいでよ。医師として、僕と一緒に民を救おう。
君がいてくれるのなら、善人になれそうな気がするよ。
「……テト」
アイダはテトを呼んでみた。
テトは手綱を持ちながら、なんだい、とアイダをぎゅっと抱きしめる。
娘たちが撒いた花びらが二人にも降りかかる。
「どうして先に私に聞かなかったのですか?薬なんか打つ前に」
「ごめん、恐くて」
「馬鹿な人…。きちんと私を見ていれば、良かったのに」
「ごめん…でもそれって」
テトがアイダを覗き込む、アイダの目は、主従を越えた何かの感情を浮かべて、テトを見つめている。嗚呼、とテトは抱きしめる。
「僕を許してくれる?」
「もちろんですとも。それにねテト。君は勘違いをしているんですよ」
「……え?」
アイダはテトの首元で、囁く。
「知識や技術を尊ぶ者にはね。不倫理な事だと知っても、乗り越えてみたい欲望の持ち主も多いんですよ……」
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