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【東の国の王の側室、西の国の王子の好奇心】
「おい、今度の王様の側室は西の国の王族からだそうだ」
「それは喜ばしいことだ、なにせまだ、王様にお世継ぎがおられないからな」
「一月後の七の日に水の時刻から、側室の行列が大通りを通るらしい」
「そうなればまた、出店が立つな。それに、王様からなにか振舞われるかもしれない。是非行こう」
そう言い合う声に、テトは食事をする手を止めて、振り返った。
「流石にこの時期になると、この話ばかりですね」
と、従者のアイダが笑う。
東の国の料理は牛の肉が多い。西は豚や鳥を使うのが主流だからどうも食べなれないとこぼしながらも、東の国の平民が行き来する食堂に躊躇なく入り、牛肉の料理を注文する主人は、自分で思っているよりも、この国の料理になじんできたのだろうと、思っている。アイダがテトと出会ったのは三年前だ。
西の国の第三王子でありながら、東の国へ医学の勉強に来ている男は変わり者なのだと思う。自分は妾の子なので王位継承者ではあるものの、きっと王位争奪の中には加わらない。だから、別の道で民の為になるということをしようとおもっているのさ。そういう事を若い男は言う。
今年二十五になるテトは、若緑色の髪を揺らしてため息をつく。
「仕方あるまい、なにせ東の国の王が側室を迎えるのは二人目だ。本来ならば、後宮に沢山の女がいてもいいと言うのに」
「賢王であらせられるから。色事には疎いのでは?」
「君も、尖った事を言うね、アイダ。元々君は王に仕える者なのに」
「ふふ、今の主は貴方様ですとも、後数時間はね」
「だが友としてなら?」
「もちろん、それは変わりませんとも」
東の国特有の、白い肌を持った男が笑う。アイダの家族は東の国の王宮に仕える家系だ。剣に秀でた兄は城の警備をし、針仕事の上手い姉は城の仕立物を担うお針子になり、母は王宮の薬師の一人で、父は王宮の図書館長だ。アイダの家に生まれた者は、全て王に仕える。そうでない者に生きる資格はない。
しかし、アイダが王から頂いた仕事と言うのは、風変わりな男の世話だった。元々母の薬師としての技術を叩き込まれ、父から渡される本で医学の知識を携えていたアイダが医師を目指そうとするのは当たり前の話で、王宮の医師の助手代わりをしていたせいもある。
ある日、王に呼び出され、西の国特有の、若緑の髪、紫の瞳、浅黒い肌の青年と引き合わされたのだ。
王は美しい。代々の王と選りすぐりのお妃が生み出した血筋は、優生学そのものだ。代を数えるごとに整った顔になっていく。ましてやこの目の前にいる方の実母は、美しさの度合いが過ぎて、前々王の側室であったにも関わらず、前王が前々王を殺してまで奪った、いわくつきの女性なのである。その顔は、見れば見る程、正気ではなくなりそうになるほどなのだ。その王が正式な王室の衣に身に着け、金の髪、白い肌、青い瞳を輝かせて、紅玉の首飾り、翡翠の腕輪、糸のように薄い金の鎖を何重にも巻き付けた首の線の淫らさときたら。その他数々の美しい宝飾品を携えた様は、神話の中の女神、なのである。彼はその美しさを解っていて、なお解らないふりをする。
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