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コバルトの海
プツンと音をたてたみたいに、車窓の向こうの町並みが途切れた。ここがどこだか僕は知っていたし、コハルだって知っている。いくつか町を過ぎたところにある漁師町。夏になれば訪れる海水浴場。
二の腕を肘で小さく突くと、眠たげにまぶたを瞬かせたコハルは、ちょっと焦点の合わない目で僕を見た。
「着いたの?」と間の抜けた声で、目的地を知らない僕に訊いた。僕はコハルのおでこをぺしんと叩き、てッ、と顔をしかめたコハルは四本指でそこをさすった。
ひょいと腰を上げると水平線が見えた。停車駅の名前を告げた電車が減速を始めた。腰を下ろした僕に弾き飛ばされるように、コハルが立ち上がった。
目も眩むほどの陽射しの中に、コバルトの海が広がっていた。
うおおー、と声を上げてこぶしを固く握り締めた僕たちは、ホームの片隅で愛を叫んだ。
「アイス食べたいよね」コハルの “よ” は、ときどき押しつけがましい。
目を閉じたコハルの鼻先が、潮の匂いを探すように左右に動いた。小学生のころ、棒アイスを交互にかじった夏の日を思い出した。アイスにくっきり残ったコハルの歯型が、芸術品のように見事で凝視してしまった日を。
「あとで食べようか。海に向かうところにあったよね」
僕の提案に、コハルは左の頬にえくぼを浮かべて右手を引いた。
「最初はグー!」いきなりコハルが右のこぶしを差し出した。
じゃんけんポン!
条件反射はおそろしい。パーで負けた。
「ハーゲンのクリスピー」
コハルがふふふと笑った。
「あそこ、そんな高級なものない」
僕の平坦な声に、コハルが顔をしかめた。
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