嘘のお話し

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嘘のお話し

 これは嘘のお話しです。  ですので、嘘が嫌いな人は読まないでください。  お父さんは小さな工場を営んでいます。ネジやバネなど、機械の部品を作っています。  あまり儲かりません。でも、大きな損もしません。  今日困りはしないけれど、明日のための蓄えはできません。  お父さんには「母さん」と呼ぶけれどお母さんじゃないお母さんと、「坊主」と呼ぶけど坊主じゃない男の子がいます。  お母さんは工場を手伝っています。  男の子は学校に通っています。上の学校に行きたいけれど、家に蓄えがないのは分かっていました。  だから、お父さんも、お母さんも、男の子も、何もわからない明日のことはあまり考えないようにしていました。  ある日、大変な事が起きました。  探検隊が光よりも早く宇宙を飛び回り、生き物の住む星を見つけたのです。  その生き物は大まかに言えば人間のような形で、人間のように群れて暮らしていました。  でも、地球ほど進んではいませんでした。木のような物で作った道具で畑を耕していました。どこかへ行くときは歩きます。そして、ほんのわずかな読み書きのできる人たちが残りの大勢に命令して働かせていました。  探検隊からその知らせを聞いた地球人は長い時間をかけて相談しました。  相談はまとまり、この星の人々に地球のやり方を教えてあげようという事になりました。  畑を耕す便利な道具を教えてあげました。  遠くまで早く、楽に行ける乗り物も教えてあげました。  それから、みんなに字を教え、わずかな人が何もかも決めるのではなく、皆で相談して決める方法を教えました。  でも、なぜかその星の人々は喜びませんでした。  おかしいな、と地球人は思いました。こんなにすてきな物や考え方を教えてあげたのに、どうして怒っているのだろう。  その星の人々はだんだん激しく怒るようになりました。そしてとうとう、地球人に手を上げてしまいました。  地球人はびっくりしましたが、皆で相談し、許してあげようという事になりました。  でも、この星の人々に教える必要がありそうです。人を叩いちゃいけないって事を。  そのために、ほんのちょっぴり厳しい顔を見せた方が良さそうです。ほんのちょっぴり。  お父さんとお母さんは注文が増えてきたことに気づきました。あの星で起きている事のおかげでした。  たくさんの機械がそこへ運び込まれています。その機械を作るための機械の部品がいるのです。  地球の機械でその星は豊かになるのだそうです。そして、仲良くなって品物をやりとりすれば皆が豊かになるのでしょう。  お父さんとお母さんは蓄えができてきたと喜びました。  男の子は上の学校に行く準備を始めました。親の跡を継ぐための勉強がしたいと思ったのです。小さい子供の頃から働く姿を見ていたお父さん、お母さんが大好きなのです。  そんなある日、お父さんのところへ友達がやってきました。  あの星に工場を作るので、皆でお金を出し合わないかと言うのです。儲かった分は、出したお金に応じて分けます。  あの星の人々は地球人より安く働いてくれます。それでも、あの星の人々からすればたくさん払う事になるのだそうです。  お父さんはお母さんと話し合い、蓄えのほとんどを出す事にしました。  大成功でした。儲かった分を分けると、工場の儲けをはるかに上回りました。しかも、それがこれからずっと続くのです。  お父さんは工場を閉じました。お金が働いてくれるんだから、もう私達が働く必要はない。そう言ってにこにこしています。  お母さんも男の子も、先の心配がなくなったので嬉しそうです。  でも、時々、ほんの少し胸がちくりと痛む事がありました。  数は少ないのですが、あの星の人々は苦しんでいると言う知らせが世間に出回る事がありました。そして、その知らせはどうもでたらめではなさそうなのです。  だけど、知らせはとても少ないので、見ないようにしようと思えば簡単にそうできました。  だから、お父さんもお母さんも男の子もそうしました。  だって、簡単に生きていく方がずっと楽しいですから。  嘘のお話しでした。 おしまい
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