6.友達

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あの手紙が気になって、授業に集中できない。 それに、やっぱりずっと誰かの視線を感じる。 咲弥くん、元カノいっぱいいるって隅谷くんが言ってたもんね。 咲弥くんはかっこいいし優しいし、元カノさんが好きなままでいてもおかしくないよ。 どんな子なんだろう。きっと可愛くてキレイで…… 「藤崎さん!」 放課後、ぼんやり廊下を歩いてたら誰かに呼び止められた。 振り返ると、そこには同じクラスの鶴屋花凛ちゃんがいた。 鶴屋さんはフラワー×フラワーという、柚が大好きなアイドルグループの子だ。ツインテールがとってもかわいい。黄緑色がメンバーカラーで、髪のリボンも黄緑だ。 「なかなかわかってくれないみたいだから、直談判に来たの。手紙、読んだでしょ?」 「手紙!? あれ、鶴屋さんだったの?」 鶴屋さんが「そう!」と腰に手を当てた。 ってことは、鶴屋さんが咲弥くんの元カノさん? こんなにかわいいアイドルの子が咲弥くんの隣にいたら、きっとお似合いだろうな。 で、でも、今は私が咲弥くんの彼女なんだから。いくら鶴屋さんが元カノでも、返すなんて―― 「咲弥くんのこと、慎太郎くんに返して!」 「……え?」 慎太郎くんって、隅谷くんのことだよね? どうして今、隅谷くんの名前が? 「咲弥くんと慎太郎くんは、幼稚園の頃からの幼馴染なの! いつも一緒にいる大親友だったんだから!」 「う、うん。仲が良いって聞いてるけど……」 「それなのに、最近咲弥くんは藤崎さんといてばっかり。あなたが2人の仲を邪魔してるの!」 ビシッと鶴屋さんに指先を向けられた。 ええっと、つまり…… 「鶴屋さん、咲弥くんの元カノさんじゃないの?」 「そんなわけないじゃない。私は咲慎(さくしん)のファンなんだから」 「サクシン?」 「……藤崎さん、咲弥くんのことなんにも知らないのね」 う……悔しいけど、私は咲弥くんのことを侍戦士リュウノスケだってことくらいしか知らない。 付き合ってるなんて言っても、なんにも知らないんだ。 「いいわ、教えてあげる。咲弥くんと慎太郎くんは、昔から共演が多くて人気があるの。小学生のときに『咲弥と慎太郎』って名前でCDも出してるんだから。それで2人のことは咲慎って呼ばれてるの」 「すごい。大人気なんだね」 「大大大人気なの! 藤崎さん、あなたがいくら咲弥くんの彼女でも、慎太郎くんとの仲を引き裂くことなんてできない。あの2人は唯一無二の大親友なんだから!」 返してって、そういうことだったんだ。 咲弥くんも隅谷くんもカッコいいから、熱狂的なファンの子がいるんだな。 「私も2人にはずっと仲良くしててほしいよ。幼馴染の親友なんて素敵だよね。私はそういう友達っていないから羨ましいんだ」 パチクリ、と鶴屋さんが瞬きをした。 「藤崎さん、咲弥くんを独り占めしようとしてるわけじゃないの?」 「まさか! 独り占めする気なんてないよ。咲弥くんとは一緒にいたいけど、でも友達も大切にしてほしいから」 キョトンとしてた鶴屋さんが、口元に手を当てた。 「藤崎さん……あなた、話のわかる人ね」 「え?」 「今までの咲弥くんの彼女って、超束縛する子ばっかりだったの。『私がいるのに他の子と話さないで!』『いつも私と一緒にいてくれなきゃイヤ!』『慎太郎くんと私どっちが大事なの!』って。だからその度に咲慎の仲が引き裂かれて……でも、あなたは違うみたい」 鶴屋さんが突然、深々と頭を下げた。 「つ、鶴屋さん!? 顔上げて!」 「勘違いであんな手紙送ってごめんなさい。藤崎さんも咲弥くんと慎太郎くんの仲を応援してくれる仲間だったのね!」 顔を上げた鶴屋さんの瞳がキラキラと輝いてた。そして、私の手を両手で包み込む。 「藤崎さん……ううん、結來ちゃん! 私と友達になって! 私、咲慎のことをわかってくれる友達がずっと欲しかったの!」 「友達? 私でいいの?」 「もちろん!」 トモダチ、ともだち……友達、かぁ。 ずっと肩に入っていたチカラが、スッと抜けていく。 「うん、よろしくね。か、花凛ちゃん」 「よろしくね!」 花凛ちゃんが笑うと、ツインテールがふわりと揺れた。
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