7.リュウノスケがやってきた

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約束の土曜日。 咲弥くんはお昼過ぎに来てくれることになってる。 「おねえちゃーん! どっかいきたいー!」 「樹、今日はお客さん来るからダメって行ったでしょ」 「えええええ」 家でできる遊びは午前中にやっちゃって、樹はもうどっか行きたいモード。 なんとか宥めて、私は柚と一緒に食器を洗う。 「お客さんって、お姉ちゃんのお友達?」 「そうだよ。もうじき来ると思うんだけど……」 ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴った。 「あ、来たみたい。柚、樹、一緒にご挨拶に来て」 「ええ、私はいいよぅ」 人見知りな柚と床に寝っ転がってた樹を引っ張って、玄関のドアを開けた。 そこには、もちろん…… 「こんにちは。お招きありがとうございます」 咲弥くん……いや、リュウノスケの登場に柚と樹が固まる。 でもすぐに大騒ぎの大絶叫。 「リュウノスケだー! リュウノスケがいる! ほんもの? ほんもの!?」 「本物だよ、樹くん。柚ちゃんもこんにちは」 「……こんにちは。なんで名前知ってるの?」 「俺はお姉ちゃんの友達だからね」 咲弥くんと相談して、今日は『リュウノスケ』として家に来てくれることになった。 サプライズに2人とも大喜び。特に樹なんて咲弥くんの周りをずっと駆け回ってる。 「リュウノスケ! へんしんして!」 「今日は悪いやつがいないからできないんだ。でもその代わり、樹に剣の稽古をつけてやるからな」 咲弥くんがボストンバックから剣を取り出した。リュウノスケの剣だ。 番組の中では、これを持つと侍のコスチュームに変身する。 樹も急いでこの前お土産に買ってあげた剣を持ってくる。 「おっ、いいの持ってるな。俺とお揃いだ」 「おねえちゃんがかってくれたんだ!」 リビングで2人の侍戦士が剣を構える。十字に斬るように、咲弥くんが剣を振った。そして、頭上に剣を掲げる。 「侍戦士、リュウノスケ!」 「さむらいせんしっ、りゅうのすけ!」 咲弥くんに続いて、樹がマネして叫ぶ。 全身で喜んでるのが伝わってきて、私まで嬉しい。 柚はというと、私の横で2人を見つめてる。 「リュウノスケくん、かっこいい」 「かっこいいよね。強くて優しくて、テレビで見るより素敵だよ」 「お姉ちゃん」 と、柚が口に手を当てて背伸びをした。なにか内緒話みたい。 「リュウノスケくんって、綾瀬咲弥くんって言うんでしょ? お姉ちゃんと同じ学校なの?」 さすがに8歳にもなれば、『役者さん』って存在はわかってる。樹に聞こえないよう、私もこっそり話した。 「クラスメイトだよ。柚たちが侍戦士大好きだって言ったら遊びに来てくれたんだ」 「でも、1番嬉しそうなのはお姉ちゃんだね」 「え!? そ、そうかな。私も侍戦士好きだからね」 「侍戦士じゃなくて、咲弥くんのことが好きなんでしょ?」 ええっ!? 柚に言い当てられちゃった。 「大丈夫。私誰にも言わないから。内緒にするね」 シィーッと柚が人差し指を立てた。 柚って結構マセてるんだなぁ。私が8歳の頃なんて、誰が誰を好きなんて全然わからなかったよ。 でも他の子はみんな恋バナとかしてたから、私が鈍いだけだったのかな。
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