7.リュウノスケがやってきた

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咲弥くんが2人と遊んでくれてるおかげで、私は部屋の掃除、溜まってた洗濯、夕食の買い物まで行けちゃった。 リュウノスケくんはうちの救世主、侍戦士様様だよ。 「さく……リュウノスケくん、夕ご飯食べて行ってね」 「マジで? ありがとな!」 キッチンにやってきた咲弥くんが、並べていた食材を眺める。 「肉にじゃがいもにニンジン、たまねぎ……カレー?」 「うん、簡単なものでごめんね」 「全然! カレー大好き! 俺も手伝うな」 「えっ、いいの?」 「カレーなら俺も作ったことあるから」 カレー作りの間、樹には咲弥くんが持って来てくれた侍戦士のDVDを見ててもらう。 いつもはお手伝いに飛んでくる柚は、チラッとこっちを見て目配せしてきた。「がんばってね」って……気を使ってくれてる? 私が野菜を切ってる間に、咲弥くんにはお肉を炒めてもらう。 「今日は本当にありがとう。樹も柚もすごく喜んでるよ」 「それならよかった。リュウノスケのこと、あんなに好きでいてくれて俺も嬉しい。俺、もっと頑張らないとな」 「咲弥くんはいつも頑張ってるよ」 「頑張ってるのは、結來もだろ」 「私? そんな、お仕事してる咲弥くんとは全然違うよ」 カチンとコンロの火を止めて、咲弥くんがこっちを向いた。 「違くねえよ。みんなの面倒見たり、料理作ったりするのだって立派な仕事だろ」 「でも、私長女だから下の子たちの面倒見るのなんて当たり前だし」 「当り前じゃねえって。うちの兄貴なんて全然だから」 「咲弥くん、お兄さんいるんだっけ」 「いるよ。うちの高等部3年」 うちの学園ってことは、お兄さんも芸能人なんだよね。 「うちの兄貴は昔っから俺のことバカにして、学校でもたまに顔合わせれば嫌味ばっか。今は事務所の寮に入ってるから、家にいなくてせいせいしてるよ。あーあ、俺も結來みたいな優しい姉ちゃんがほしかったな」 「私はお兄さんがほしかったけどな」 「ダメダメ。兄貴なんてどうしようもない……って言ったら、他んちの兄貴に失礼だよな。うちの兄貴が特別ダメなだけ」 そんなにダメダメ言われるお兄さんって、どんな人なんだろう。 咲弥くんのお兄さんってことは、カッコイイことは間違いないんだろうけど。 「とにかく、結來はもっと自分のやってることに自信持てよ。料理も上手いし、勉強もできて優しい。きっと柚と樹も自慢に思ってるよ」 「そんな、私なんて……」 言いかけると、咲弥くんの人差し指が私の唇に触れた。 「『私なんて』禁止。わかった?」 まるで小さい子に言い聞かせるように言われちゃった。 唇は咲弥くんの指に押さえられたままで、私はコクコクとうなずく。 「おねえちゃーん! おなかすいたー!」 樹の声に、咲弥くんがパッと指を離す。 「もうちょっと待ってな。すぐできるから」 「そ、そう。もうすぐだからね」 私は残ってた野菜を一気に切って、咲弥くんが炒めてくれたお肉と一緒に煮込む。 お鍋をかきまわす私の横で、咲弥くんが食器を洗っててくれる。でもなんだか恥ずかしくて、そっちを見られなかった。 2人で作ったカレーは柚と樹にも大好評。咲弥くんも「おいしい」って何度も言ってくれた。 食べ終わると、そろそろ咲弥くんが帰る時間。樹は「かえっちゃヤダー!」って大騒ぎだったけど、なんとか宥めて柚に任せる。 私は咲弥くんを見送りに、玄関に出た。 「あんなに言われると、俺も帰りたくなくなっちゃうなー」 「あはは、もし良かったらいつでも遊びに来てね。今日はいろいろしてもらっちゃって、本当にありがとう」 「たいしたことしてないけど。でも俺、すっげえ楽しかった。してよかったな、おうちデート」 「うん、私もすっごく楽しかった」 玄関の外灯に照らされた咲弥くんが、嬉しそうに笑ってくれる。 「じゃあな、また学校で」 「うん、気をつけて帰ってね」 手を振ろうとすると、咲弥くんが私の耳元に顔を寄せた。 「おやすみ、結來」 咲弥くんに囁かれた耳が、熱くなる。 おやすみ、って返事する余裕もないうちに、咲弥くんが手を振って帰って行った。 咲弥くんが見えなくなっても、胸のドキドキ、全然収まらないよ。
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