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咲弥くんが2人と遊んでくれてるおかげで、私は部屋の掃除、溜まってた洗濯、夕食の買い物まで行けちゃった。
リュウノスケくんはうちの救世主、侍戦士様様だよ。
「さく……リュウノスケくん、夕ご飯食べて行ってね」
「マジで? ありがとな!」
キッチンにやってきた咲弥くんが、並べていた食材を眺める。
「肉にじゃがいもにニンジン、たまねぎ……カレー?」
「うん、簡単なものでごめんね」
「全然! カレー大好き! 俺も手伝うな」
「えっ、いいの?」
「カレーなら俺も作ったことあるから」
カレー作りの間、樹には咲弥くんが持って来てくれた侍戦士のDVDを見ててもらう。
いつもはお手伝いに飛んでくる柚は、チラッとこっちを見て目配せしてきた。「がんばってね」って……気を使ってくれてる?
私が野菜を切ってる間に、咲弥くんにはお肉を炒めてもらう。
「今日は本当にありがとう。樹も柚もすごく喜んでるよ」
「それならよかった。リュウノスケのこと、あんなに好きでいてくれて俺も嬉しい。俺、もっと頑張らないとな」
「咲弥くんはいつも頑張ってるよ」
「頑張ってるのは、結來もだろ」
「私? そんな、お仕事してる咲弥くんとは全然違うよ」
カチンとコンロの火を止めて、咲弥くんがこっちを向いた。
「違くねえよ。みんなの面倒見たり、料理作ったりするのだって立派な仕事だろ」
「でも、私長女だから下の子たちの面倒見るのなんて当たり前だし」
「当り前じゃねえって。うちの兄貴なんて全然だから」
「咲弥くん、お兄さんいるんだっけ」
「いるよ。うちの高等部3年」
うちの学園ってことは、お兄さんも芸能人なんだよね。
「うちの兄貴は昔っから俺のことバカにして、学校でもたまに顔合わせれば嫌味ばっか。今は事務所の寮に入ってるから、家にいなくてせいせいしてるよ。あーあ、俺も結來みたいな優しい姉ちゃんがほしかったな」
「私はお兄さんがほしかったけどな」
「ダメダメ。兄貴なんてどうしようもない……って言ったら、他んちの兄貴に失礼だよな。うちの兄貴が特別ダメなだけ」
そんなにダメダメ言われるお兄さんって、どんな人なんだろう。
咲弥くんのお兄さんってことは、カッコイイことは間違いないんだろうけど。
「とにかく、結來はもっと自分のやってることに自信持てよ。料理も上手いし、勉強もできて優しい。きっと柚と樹も自慢に思ってるよ」
「そんな、私なんて……」
言いかけると、咲弥くんの人差し指が私の唇に触れた。
「『私なんて』禁止。わかった?」
まるで小さい子に言い聞かせるように言われちゃった。
唇は咲弥くんの指に押さえられたままで、私はコクコクとうなずく。
「おねえちゃーん! おなかすいたー!」
樹の声に、咲弥くんがパッと指を離す。
「もうちょっと待ってな。すぐできるから」
「そ、そう。もうすぐだからね」
私は残ってた野菜を一気に切って、咲弥くんが炒めてくれたお肉と一緒に煮込む。
お鍋をかきまわす私の横で、咲弥くんが食器を洗っててくれる。でもなんだか恥ずかしくて、そっちを見られなかった。
2人で作ったカレーは柚と樹にも大好評。咲弥くんも「おいしい」って何度も言ってくれた。
食べ終わると、そろそろ咲弥くんが帰る時間。樹は「かえっちゃヤダー!」って大騒ぎだったけど、なんとか宥めて柚に任せる。
私は咲弥くんを見送りに、玄関に出た。
「あんなに言われると、俺も帰りたくなくなっちゃうなー」
「あはは、もし良かったらいつでも遊びに来てね。今日はいろいろしてもらっちゃって、本当にありがとう」
「たいしたことしてないけど。でも俺、すっげえ楽しかった。してよかったな、おうちデート」
「うん、私もすっごく楽しかった」
玄関の外灯に照らされた咲弥くんが、嬉しそうに笑ってくれる。
「じゃあな、また学校で」
「うん、気をつけて帰ってね」
手を振ろうとすると、咲弥くんが私の耳元に顔を寄せた。
「おやすみ、結來」
咲弥くんに囁かれた耳が、熱くなる。
おやすみ、って返事する余裕もないうちに、咲弥くんが手を振って帰って行った。
咲弥くんが見えなくなっても、胸のドキドキ、全然収まらないよ。
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