8.七夕祭り

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今日はお母さんの帰りが早かったから、一緒に夕ご飯を食べられた。 「おかあさん! きょうねー、ようちえんでおねがいごとかいたよ」 樹がハンバーグを頬張りながら言った。 「もうすぐ七夕だものね。なんてお願いしたの?」 「リュウノスケになれますように!」 「樹はこの前リュウノスケくんに会ったから、ずっとリュウノスケになりたいって言ってるの」 「まあ、そうなの。柚は何をお願いするの?」 「私はねぇ……」 七夕かぁ。 ぼんやりハンバーグを箸で切っていると、お母さんに「結來」と呼ばれる。 「今週末、七夕祭りがあるでしょう」 「うん、今年もみんなで一緒に行ってくるからね」 「でも結來、お友達と行きたいんじゃないの?」 え? と、ハンバーグから顔を上げた。 「もう中学生なんだから、お祭りはお友達と一緒に行きたいでしょう?」 「けど、そしたら柚と樹が……」 「大丈夫。今年はお母さんお休み取れたの」 「お母さん、お休み!?」と柚と樹が声を上げる。 「そうよ。だから柚と樹は、今年はお母さんと一緒に行こうね」 「お母さん、本当にいいの?」 「もちろん。お母さんだって、たまにはお祭り行きたいもの」 「やったー! おかあさんとおまつり!」 「お母さん、私浴衣着たい。お姉ちゃんからもらったやつ」 柚と樹にとって、お母さんと行くお祭りは初めて。夕食の間中、大騒ぎだった。 食べ終わった後、台所で食器を洗おうと思ったらお母さんがやって来た。 「今日はお母さんがやるから」 「でもお母さん疲れてるでしょ」 「早く帰って来れたときくらい、お母さんらしいことさせてちょうだい」 お母さんが私に代わって、流し台に立つ。 「結來、いつも我慢させちゃってごめんね」 「私は平気だよ。家族なんだから、大変なときは助け合わなくちゃ」 お母さんが「ありがとう」と微笑んだ。 ちょいちょい、と服の裾が引っ張られる。柚だった。口元に手を当てて、また内緒話みたい。 「お姉ちゃん。七夕、咲弥くんとデートするんでしょ?」 「デッッ!?」 お母さんは聞こえてるのかいないのか、お皿を洗ってる。 私は流し台から離れて、柚に耳打ちした。 「柚、内緒って言ったでしょ。お母さんに聞こえちゃう」 「やっぱりデートなんだ」 私が黙っていると、柚はふふふっと笑ってリビングに戻って行った。 もう、ちゃんと内緒にしててよね。
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