9人が本棚に入れています
本棚に追加
9.見上げる花火
七夕祭り当日。
約束の時間はお昼過ぎだったけど、その前に花凛ちゃんの家に行った。
花凛ちゃんの家はオートロックのマンション。
家に行くのにビルみたいなエレベーターを使うなんて、不思議な感じ。
「いらっしゃーい! 結來ちゃん!」
「お邪魔します。今日は浴衣を貸してもらって、本当に……」
「そういうお母さんみたいな挨拶はいいから。入って入って。衣裳部屋に浴衣用意してあるの」
花凛ちゃんに案内してもらった部屋は、ハンガーラックがずらりと並んで、いろとりどりの浴衣が吊るされてあった。
「これ、全部花凛ちゃんの浴衣?」
「今まで使ってきた衣装だけどね。どれでも好きなの選んで」
花凛ちゃんのメンバーカラーは黄緑だから、やっぱり黄緑の浴衣が多い。
でもピンクに赤、水色、紫。それに柄もお花に金魚、かわいいのから大人っぽいものまで。
どれでもいいって言われても、たくさんあって迷っちゃうよ。
「私はこれにするんだ」
花凛ちゃんがラックから外したのは、黄緑色の浴衣だった。
「かわいいね。ホントに黄緑が好きなんだ」
「なんで私が黄緑好きか知ってる?」
「メンバーカラーだからじゃないの?」
チッチッチ、と花凛ちゃんが指を振った。
「咲慎がCD出したとき、咲弥くんのイメージカラーが青、慎太郎くんが黄色だったの。だから、2人の色を合わせて黄緑!」
そういえば、花凛ちゃんに見せてもらったCDのジャケットでは咲弥くんが青い衣装を着てた。
花凛ちゃん、ホントに2人が好きなんだなぁ。
「結來ちゃん、決まらない感じ?」
「うん、みんな可愛いから選べないよ」
「じゃあねぇ……これは?」
花凛ちゃんが選んでくれたのは、紫の生地に赤い花の模様が入った浴衣だった。
「紫は大人っぽい花凛ちゃんに似合うと思う。花柄だからかわいいし。それにね」
ふふっと花凛ちゃんが笑った。
「咲弥くん、紫色が好きなんだよ」
「そうなの?」
「前に雑誌のインタビューで言ってた。大人っぽくて上品な色だからって」
「でも、それを私なんかが着て喜んでもらえるかな……」
「なに言ってんの! 喜んでくれるに決まってるじゃない。好きな女の子が好きな色の服着てくれる。これで喜ばない男の子はいないから!」
「そ、そうなの……?」
「そういうものなの。もう、結來ちゃんってば咲弥くんの彼女の自覚なさすぎー」
そ、そうだよね。私咲弥くんの彼女なんだから。
それにまた『私なんか』って言っちゃった。咲弥くんと約束したのに。
「あ、そろそろ着替え始めないと。結來ちゃん、着付けしてもらっていい?」
「もちろん」
浴衣を貸してもらう代わりに、着付けは私がやらせてもらうことにした。
花凛ちゃんの浴衣の衿を持って右側を下に、左側が上になるように合わせる。最後に鮮やかな緑の帯を締めた。
次は自分の浴衣も着付けて、完成。紫の帯を締めると、余計に上品に見えた。
「着付けできるなんてすごいね!」
「ずっと柚に着付けてあげてたから。着物と比べれば、浴衣は簡単なんだ」
これで終わりかと思ったら、花凛ちゃんは簪を使って髪を結い始めた。
浴衣なら髪も大事だよね。でも柚はショートカットだから、髪を結ったことないんだよな。
花凛ちゃんの簪は青と黄色の花飾りが揺れてる。これも咲慎のイメージカラー、だよね。
「結來ちゃんもやってあげる」
「いいの?」
「もちろん。結來ちゃんいつも髪下ろしてるから、アップにして普段とは違う魅力を咲弥くんに見てもらわなきゃ」
「な、なんだか恥ずかしいね」
「結來ちゃんはもっと積極的にならなくちゃ。そんなんじゃ、咲弥くんを慎太郎くんに取られちゃうんだからね」
それは花凛ちゃんの願望……ま、いっか。
私には紙風船の飾りがついたピンクの簪を付けてくれた。
「ありがとう、花凛ちゃん」
「お互いさまでしょ」
最初のコメントを投稿しよう!