9.見上げる花火

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4人で一緒にヨーヨー釣りや金魚すくいをして、わたあめやりんご飴を食べて、お祭りを満喫した。お母さんが特別にお小遣いをくれたおかげだよ。 射的で咲弥くんと隅谷くんが勝負したときは、2人よりも花凛ちゃんが大興奮してた。 「咲慎対決だ!」 って、ずっと動画や写真撮ってた。すごく幸せそう。 「腹減って来たな。わたあめじゃ腹にたまらねえもん」 隅谷くんがお腹を押さえる。そういえば、ちゃんとお昼食べてなかったもんな。 「じゃあ、私何か食べるもの買ってくるよ。何がいい?」 「あー、待って待って。私と慎太郎くんで行くから、結來ちゃんは咲弥くんと座れるとこ探しといて」 私が買いに行こうとしたら、花凛ちゃんに止められた。 「結來ちゃん、咲弥くんと2人きりになりたいでしょ」 「そ、それは……でも、いいの?」 「いいの。いっぱい咲慎を見せてくれたお礼。じゃ、慎太郎くん。行こう」 「はいはい。ゆっくり行ってくっからな」 そう言って、慎太郎くんと花凛ちゃんは行ってしまった。 2人とも、ありがとう。 「じゃ、俺たちは場所取りしとこっか」 「うん。どこかいいところあると……っ」 突然、咲弥くんが私の手を握った。 「手、繋いどこ。人多くなってきたから、はぐれないように」 「う、うん……」 手を繋ぐの、アスレチックのとき以来だな。 咲弥くんに手を引かれて、私たちは屋台が並ぶ通りから抜けて行った。 見つけたのは、本殿の裏にある公園。っていっても、古いブランコと滑り台、それからベンチが置いてあるだけ。 穴場だったみたいで誰もいなかった。公園の四方には、赤い提灯が飾られてる。夜になったら明かりが灯ってキレイなんだろうな。 「慎太郎たちにメッセージで場所連絡しといたから」 「ありがとう」 ベンチに並んで座ると、ふうっと息をついてしまう。 「疲れた?」 「大丈夫。みんなと来れてよかった。すっごく楽しいよ」 「俺も」 咲弥くんに、じっと見つめられる。 何か言われるのかなと思ったけど、それ以上言葉はない。なんだか恥ずかしくなって下を向いてしまう。 「なんで下向くの? 顔見せて」 「だって、咲弥くんずっと見てるから」 「結來がかわいいんだから、仕方ないじゃん」 咲弥くんと付き合うまで、「かわいい」なんてお母さん以外から言われたことなかった。 最近は咲弥くんに言われすぎて、キャパオーバーだよ。私なんか、別にかわいくないのに…… って、いけないいけない。『私なんか』はダメ。それに、せっかく咲弥くんが言ってくれたことを否定するのも失礼だよね。 「浴衣、咲弥くんが喜んでくれてよかった。紫、好きなんだもんね」 「俺、紫色が好きっていうか、紫が似合う子が好きなんだ。大人っぽくて上品で、素敵な女性。結來みたいな」 「わ、私……?」 「簪は逆にちょっと子供っぽくてかわいいな。そういうのも似合う」 咲弥くんが、簪に垂れさがった紙風船の飾りをちょんと揺らした。 なんだか、時間がすごくゆっくり流れてる気がする。今この瞬間が、ずっと続けばいいのにな。 ふと空を見上げると、少し陽が傾き始めていた。 「本当は夜までいたかったんだけどな。結來と花火見たかった」 「侍戦士の撮影でしょ? みんな楽しみにしてるんだから、頑張らなきゃね」 「そうだけど、俺は侍戦士の前に結來の彼氏なんだからさ」 あーあ、と咲弥くんが足を揺らした。 「結來は、俺と花火見られなくて残念じゃないの?」 「私も咲弥くんと花火見たかったよ。でも、お仕事頑張ってる咲弥くんも大好きだから、応援したいんだ」 咲弥くんが驚いたように苦笑する。 「そう言われちゃったら、頑張らないとじゃん。侍戦士、結來のために頑張ってくるよ」 「地球の平和のためにでしょ」 「リュウノスケはな。俺は結來のために戦ってんの」 「ふふっ、心強いなぁ」 と、咲弥くんが急にマジメな顔をした。 「俺、何があっても誰が相手でも、絶対結來を守るからな」 「ど、どうしたの急に」 「結來って、あんまり弱音とか愚痴とか吐かないじゃん。1人で抱え込んだりしそうだから、心配なんだよ。なんかあったら俺に言えよな」 「ありがとう。でも大丈夫だから」 と言ったけど、咲弥くんはあんまり納得してないみたいだった。 咲弥くんが味方でいてくれるってだけで、私はすごく助けてもらってるんだけどな。 「あ、そうだ。咲弥くん、撮影って外?」 「うん、今日はバトルシーンの撮影だから」 「もし花火が見える場所なら、見上げてみてよ。私も見上げるから」 「そっか! そしたら一緒に花火が見られるな。俺たちは、同じ空の下にいるんだから」 咲弥くんが小さい子みたいにニコニコ笑った。
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