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10.釣り合わない
楽しい七夕が終われば、今度は期末テスト。
七夕の後からずっと勉強してたから、たぶん大丈夫だと思う。
恋人ができたからって成績を落とすわけにはいかないもんね。みんなはお仕事と勉強を両立、私も恋と勉強を両立させなくちゃ。
テスト期間中は、テストが終わったら学校も終わり。
仕事まで時間がある子が多いみたいで、テスト期間中なのになんだか和やかな放課後。
今日は咲弥くんとTerra-Cottaに行く約束をしてて、校門の前で待ち合わせ。
……と思ったら、門のところがやけに賑やか。
女の子たちがたくさんいて、キャーキャー黄色い声が飛んでる。
その真ん中に、サングラスを掛けた男の子が立ってた。高等部の制服だ。
女の子の1人が、突っ立ってた私に気づく。
「桃弥先輩。ほら、あの子が藤崎結來って子ですよ」
その子が私を指差した瞬間、周りの子たちの視線が一斉に私に集まった。
サングラスの人が、女の子たちを掻き分けて私の前にやってくる。
「あんたが咲弥の彼女?」
「か……ッ!?」
と、突然なにこの人!?
みんな私と咲弥くんのこと知ってるみたいだけど、こんな大勢の前で言われるなんて……。
「あ、あの、あなたは……?」
「え、俺のことわかんない?」
本気で驚いた様子でサングラスを取ったその人の顔は……咲弥くんそっくり!?
あ! この人、咲弥くんのお兄さんだ!
そういえば『桃弥先輩』って呼ばれてたっけ。
「高等部3年、綾瀬桃弥。これでも俳優やってるんだけど、あんまりテレビとかネット見ない人?」
「す、すみません……」
お兄さん……綾瀬先輩も私と咲弥くんが付き合ってること知ってるんだ。
綾瀬先輩は私の頭からつま先まで見て、「へえ」と可笑しそうに言った。
「一般人と付き合ってるとは聞いてたけど、ほんっとに普通の子だね。驚いた。ま、そういう擦れてないとこが咲弥にとっては物珍しかったのかもしれないけど。あいつ、芸能界のことしか知らないから」
ええっと、褒められてはない……よね。
なんとなく居心地が悪い。咲弥くんのお兄さんだし、先輩なんだから失礼がないようにしないといけないのに。
「兄貴!!」
叫ぶような声が飛んできて、グイッと腕を引かれる。それと同時に、咲弥くんが私と綾瀬先輩の間に入ってきた。
「結來に何してんだよ!」
「人聞き悪いな。この子お前の彼女なんだろ。兄貴として挨拶しとこうと思ってさ」
「じゃあなんで結來がこんな怯えてんだよ」
怯えてる?
そっか……私、綾瀬先輩のこと怖かったんだ。
「こんな売れっ子芸能人見たことなかったから、驚いたんじゃねえの? ビックリさせてごめんね、結來ちゃん」
「気やすく呼んでんじゃねえよ」
「独占欲の強い男は嫌われるよ。ああ、お前まともな彼女初めてだっけ。じゃ、舞い上がるのも無理ないか」
咲弥くんに睨みつけられても、綾瀬先輩はどこ吹く風。先輩はポケットに手を突っ込んだ。
「でも、兄ちゃんガッカリだよ。お前の彼女がこんな普通の子なんてなぁ。お前と全然釣り合ってないじゃん」
「は……っ」
咲弥くんが顔をしかめた。
「咲弥なら、もっとレベル高い子狙えただろ。中等部にもアイドルとか女優の子がいるじゃんか。一般人にしても、もっと美人でかわいい子にしとけば……」
「黙れよ」
聞いたこともないような低い声で、咲弥くんが遮った。
咲弥くんの握った拳が震えてる。
「結來のこと悪く言うのはやめろ」
「お前のために言ってんだよ。相手はちゃんと選べ。レベル高い子といっぱい恋愛すると、演技にも磨きがかかるぞ。俺みたいにな」
「俺は兄貴みたいにコロコロ彼女を変える男にはなりたくない」
「ピュアなことで」
綾瀬先輩が鼻で笑った。
咲弥くんは顔を伏せて、私の手を引く。
「行くぞ、結來」
「う、うん」
振り返ると、綾瀬先輩が不敵な笑みを浮かべていた。
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