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3.ウワサの真相
次の日もまた次の日も、綾瀬くんは何事もなかったように「おはよう」と声をかけてくれた。
そんな綾瀬くんの顔を見られなくて、いつも逃げるように席に着いてる。
もしかして、綾瀬くんは告白のこと忘れちゃってるのかな。それならその方がいいんだけど。
いっそのこと私も忘れたかったけど、初めての告白を簡単に忘れるなんてできない。
綾瀬くんと同じ教室にいたら、どうしても意識しちゃうよ。
だから朝は遅刻ギリギリに教室に飛び込んで、休み時間はなるべく教室にいないようにした。
最近綾瀬くんは撮影が忙しいみたいで、あんまり学校にいなくて助かった。
早く夢から覚められたらいいのに。
テストが終わってからもそんな毎日を送ってたら、気が滅入ってきちゃった。ちょっと息抜きしようかな。
通学路にあるカフェ、ずっと気になってたんだよね。気分転換に飲みに行ってみよう。無駄遣いはできないけど、たまにはいいよね。
放課後、1人でカフェに向かった。
レンガ風の壁に赤い屋根。今日初めてちゃんと看板を見たけど、『Terra-cotta』って名前らしい。
カウンターでオススメの抹茶フロートを頼んで、奥の席に座った。隣の席との間には低い壁のような仕切りがあって、上に観葉植物が並んでる。ここなら1人でも目立たない。
別に目立ってもいいんだけどね。この通りを通学路として使ってるのは、たぶん私くらい。みんな電車で帰ったり仕事に行くから、駅とは反対方向のこの店にうちの学校の人が入って行くのは見たことない。
抹茶フロートをストローでひとくち。あまいけど、ちょっぴり苦い。上に乗ってるバニラアイスと一緒に飲むとちょうど良い。
1人でカフェなんて落ち着かないかと思ったけど、そんなことなかった。むしろ芸能人に囲まれてる学校と違って、普通の空間にホッとする。
この店、お気に入りになりそう。
「ここの抹茶フロート、マジで旨いから飲んでみ? 騙されたと思って」
「別に疑ってないけど」
賑やかな男の子たちの声が聞こえてきた。せっかく静かで良い雰囲気だったのに。
まさかうちの学校の人じゃないといいけど……
「今日は咲弥のオゴリな」
「はあ? なんで」
「お前が相談したいって言ってきたんだろ」
綾瀬くん!!??
恐る恐る顔を上げると、もう1人は隣のクラスの隅谷慎太郎くんだった。侍戦士でリュウノスケの友達役で出演してる。
どうしよう。こんなところで会ったら気まずい。
でも私の席は1番奥で、顔を合わせないで外には出られない。
もたもたしてると、抹茶フロートを持った2人がこっちにやってきた。
慌てて観葉植物に隠れるように体を小さくする。綾瀬くんと慎太郎くんは、よりにもよって隣の席に座った。
これじゃ席を立ったら絶対見つかっちゃう。帰るに帰れないよ。
2人が席に着いた途端、綾瀬くんの弱々しい声が聞こえてきた。
「しんたろー……俺もうどうすればいい……?」
「告白はしたんだろ? 結來ちゃんに」
「『結來ちゃん』とか呼ぶなよ。俺だってまだ藤崎さんって呼んでんのに」
わ、私の話……?
「告白はしたけど、全然返事もらえないんだよ。なんか避けられてるような気がするし。やっぱ俺じゃダメなんかな」
「スマホからメッセージしてみれば? IDくらい聞いただろ?」
「スマホ持ってないんだって」
「ええっ、イマドキ? まあ、あの子一般人だもんな」
そーっと観葉植物の隙間から覗くと、綾瀬くんが机に突っ伏していた。
やれやれと、隅谷くんがアイスをつつく。
「ああいうしっかりした子は、ゆっくり段階を踏んで告白しないとダメなんだよ。焦り過ぎたんじゃねえの」
「時間は掛けたよ。毎朝「おはよう」って言ったし、掃除当番も手伝って、一緒にテスト勉強もして最大のチャンスだと思ったからその日に」
「それが焦りすぎだって言ってんだよ。『おはよう』以外は全部その日のことだろ? 詰め込み過ぎなんだよ」
2人が話してるのは、紛れもなく恋の相談。しかも私の。
綾瀬くんは誰にでも声をかけてるプレイボーイで、だから私にもその場のノリで告白しただけ……と思ってたのに。
「ま、今更後悔しても遅い。相手は一般人なんだ。お前みたいな芸能人に突然告られて半信半疑なのかもしれないぜ。ここまできたら、こっちからアクション起こして本気だってとこ見せた方がいい」
「そう……だよな。わかった! 俺、明日藤崎さんに返事を聞きに行く!」
な、なんか急展開……。私、明日返事しないといけないの?
何も考えてないどころか、忘れようって思ってたのに!?
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