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咲弥くんに連れられて、劇場の裏口を出た。
そこは芝生になっていて、テーブルとベンチが置かれてる。関係者の人が休憩に使うのかもしれない。
「ほんっと、ごめん! あのバカ兄貴が」
「ううん、大丈夫。それより、私……咲弥くんに話があるの」
改めて向かい合うと、咲弥くんは「なに?」と首を傾げた。
「お付き合いのお試し期間……終わりにしてください」
咲弥くんが息を飲む。
本当は今日ここで、咲弥くんとお別れしようと思ってた。
でも今伝えたいことは……
「私と、正式にお付き合いしてください」
舞台上で叫んだとき、私の心は決まった。
咲弥くんが目を大きく見開く。
「ホントに? ホントにいいのか?」
「うん。咲弥くんがいいなら」
「いいに決まってるだろ!」
突然、咲弥くんに強く抱きしめられた。
ぎゅうっと、咲弥くんに包まれる。
「さ、咲弥くん!?」
「舞台上で叫んでくれたの、俺めちゃくちゃ力になった。結來のためなら、俺マジでなんでもできると思った」
「咲弥くんが、『俺が絶対に結來を助ける』って言ってくれたから……」
だからあのとき声が出た。体の奥から湧き上がってくるみたいだった。
「なあ、もう1回言ってくれよ」
「え?」
「咲弥くんが好き、って」
耳に咲弥くんの唇が触れる。
ボンッと顔から火が出たみたいだった。
「さっき兄貴には言ったじゃん。ちゃんと俺に言って?」
「さ、咲弥くんのこと……」
「うん?」
ギュッと目をつぶって、咲弥くんの背中に腕をまわした。
「咲弥くんのこと、大好き」
一般人と芸能人、大変なことだってあると思う。
でも咲弥くん言ってくれたから。『ワガママ言ってもいい』って。
「ずっと咲弥くんと一緒にいたい。私のワガママだけど」
「そんなワガママだったら、いくらでも叶えてやるよ」
咲弥くんの瞳に、私が映ってる。私の瞳の中にもきっと、咲弥くんがいる。
「大好きだよ、結來。ずっと一緒にいような」
「うん! 私も、大好き!」
優しいそよ風が、私と咲弥くんを包み込むように吹き抜けて行った。
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