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仕事があるからと、綾瀬くんがお店を出て行った。
1人残った隅谷くんが、スマホ片手に抹茶フロートを飲んでる。
さっきの様子だと、綾瀬くんと隅谷くんはすごく仲が良さそう。隅谷くんなら綾瀬くんのこと、いろいろ知ってるかも。
よし、と思い切って立ち上がる。仕切りの壁をまわって隣のテーブルに行った。
「あの、隅谷くん?」
「うわっ! 結來ちゃん? ビックリした~。ウワサをすればなんとやらってやつ?」
驚いてた隅谷くんだったけど、すぐに「まあ座って座って」と綾瀬くんが座ってた席をすすめてくれた。
隅谷くんは、侍戦士に出たときと同じ黒縁のメガネを掛けてる。トレードマーク、なのかな。
「ごめんなさい。私、隅谷くんと綾瀬くんの話聞いちゃってて」
「いいよ、いいよ。その方が話早いし。で、ぶっちゃけどうよ。咲弥のこと、好き?」
「…………」
「ウソ! 嫌い?」
「ち、違うの。嫌いじゃない、けど……」
黙り込んでしまった私の顔を、隅谷くんが覗き込む。
「咲弥のこと、聞きたいことがあるならなんでも聞いて。俺、あいつとは芸能界に入った頃からの付き合いで、幼馴染みたいなもんだからさ」
ウワサのこと、まさか本人に聞くわけにはいかない。今頼れるのは、隅谷くんだけだ。
「……綾瀬くんのウワサを聞いたの。いろんな子に声を掛けてるって」
「あぁー……」
アレね、と隅谷くんが頭を掻いた。
「それ、小学生の頃からずーっと言われてるんだぜ」
「えっ!?」
「あいつ、昔から人見知りとは無縁でコミュ力高いから、誰にでも話しかけてすぐ仲良くなるんだよ。男女関係なく。それでプレイボーイとかナンパ男とか言われてるってわけ」
それ、誰とでも友達になれる人ってこと、だよね?
「じゃあ、ウワサは誤解なの?」
「誤解誤解! 元カノも何人もいたけど……」
「何人も!?」
小学生のときに元カノが何人も……。
芸能人、やっぱり住んでる世界が違うよ。
なんて思ってると、隅谷くんが「違う違う」と慌てた。
「最後まで聞いてって。元カノ何人もいたけど、全部一方的に告られて一方的に振られてんだよ。最長1ヶ月、最短3時間かな」
「え……どうして?」
「誰とでも仲良くなるから女の子にもモテるんだけど、付き合っても変わらずみんなと仲良くするから彼女が怒って破局……の繰り返し」
「そ、そうなんだ」
隅谷くんがテーブルに身を乗り出した。
「咲弥は本気で結來ちゃんに告ったんだよ。誰にでもすぐ声を掛けに行くあいつが、結來ちゃんに声掛けるまでかなり時間かかってたんだから」
「そうなの?」
「『おはよう』って言えただけで大喜びしてたんだぜ。告白するって決めてからも、どうやって言おう。何かきっかけとかないかな。どうすればいい? って悩みまくってた。あんな咲弥初めて見たぜ」
綾瀬くん、本気だったんだ。本気で私のこと好きだって言ってくれたのに、疑ったりして……。
でも、それならそれでわからないことがある。
「綾瀬くんは、どうして私なんかに告白してくれたんだろう」
「そりゃ、結來ちゃんが好きだからっしょ」
「私なんかの、どこが……」
チャンチャララン♪
隅谷くんのスマホからメロディーが鳴った。
「悪い。俺もう行くな」
「隅谷くんもお仕事?」
「お仕事お仕事! 告白した理由は本人に聞いちゃえよ。じゃあな!」
飲みかけのフロートを片手に、隅谷くんが飛び出して行った。
本人に、かぁ……。
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