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バスの中で寝てる間に、アスレチックワールドに到着した。
先生の話が終わり、みんなが散り散りに解散して行く。
「結來、おはよ!」
振り向くと、咲弥くんがいた。
「おはよう、咲弥くん」
「バスで声掛けようと思ったんだけど、結來ずっと寝てるから」
「早起きしたから眠くなっちゃって」
「俺も、昨日楽しみであんまり眠れなかったんだよな」
初デート。
その言葉を思い出して、なんだか咲弥くんと2人でいることが恥ずかしくなる。
私たち、本当に恋人になったんだよね……?
「いやあ、めでたいね~。おふたりさん!」
賑やかにやって来たのは隅谷くんだった。
「なんだよ、慎太郎。お前、清水たちとまわるんだろ?」
「その前にお祝いに来たんだよ。2人の仲を取り持ったキューピッドとして」
隅谷くんが私にウインクを飛ばす。
隅谷くんがいなければ、咲弥くんのことを誤解したままだった。
「この前はありがとう、隅谷くん」
「いいってことよ~、結來ちゃん」
「はっ!? お前、結來と何があったんだよ!」
咲弥くんをひょいっとかわして、隅谷くんは手を振って駆けて行った。
「じゃあな~、お幸せに~」
「ちょっ、慎太郎! ったく、なんなんだあいつ」
「あはは、2人とも仲良いんだね」
幼馴染の子役仲間って言ってたっけ。
いいなぁ。私もそんな友達、いたらいいのに。
「もうみんな行っちゃったな。俺たちも行こうか」
「うん!」
『アスレチックワールド』は、その名の通り広い敷地内の至る所に、丸太やロープでできたアスレチックがある。
空中にロープが張ってあったり、池の上にタイヤが浮いてる。
「俺、ここ始めて来た。結來は?」
「私は去年1回だけ。地区の子供会で来たことあるよ」
「へえ、じゃあアスレチックは先輩だ。攻略法教えてよ」
「無理無理。私運動苦手だし、それに前に来たときは見てるだけだったから」
「見てるだけ?」
ここのアスレチックは、ほとんどが子供でも遊べる。だけど、小さい子が1人で遊ぶのは難しい。
「お母さんが仕事だったから、私が妹と弟を連れて参加したの。妹はまだ1年生だったし、弟は年中さん。2人がケガしないようにとか、迷子にならないように見てるのが精一杯で、私が遊んでる場合じゃなかったんだ」
「そっか……」
あれ、なんかしんみりした空気。
私は慌てて首を振った。
「楽しくなかったわけじゃないよ。私長女だから、2人の面倒を見るのはいつものことだし、2人が楽しかったって言ってくれて嬉し……」
「俺も、あんまり遊んだことないんだ」
咲弥くんが足元の石ころを蹴飛ばした。
「物心ついたときから子役やってたし、習い事も多かったから。アスレチックとか遊園地とか行ったことあるけど、それはいつも撮影」
「そうだったんだ……」
「だからさ」
咲弥くんの蹴った石が、遠くに飛んで行った。
「今日は2人でめいっぱい遊ぼうな。なんたって、初デートなんだからさ」
ニカッと笑う咲弥くんに釣られて、私もほっぺが緩んだ。
咲弥くんの後ろに、太陽の光がサンサンと輝いていた。
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