カフェにて

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カフェにて

小柄な金髪青年が、とりあえずといった感じで あまり綺麗ではない脚を出している女の子と大声で話をしている。 きっと大学生だろう。 視線を少し右に逸らすと、インスタグラムを見て頬杖をつく女の子がいた。 真っ黒なショートボブヘアに隠れて表情までは見えないが、 機嫌が良くは無さそうだ。 カフェでは男よりも女の比率が高い。 この理由を何度か女友達に聞いてみたことがあったが、 まともな回答を得たことは無い。 視線を本に戻すと今度は、朱色の髪を綺麗に巻いている 少し背が大きな女の子が僕の隣の席に座った。 ベージュのショート丈のジャケットに テーパードが効いたスラックスのセットアップ 恐らくオニツカタイガーの少し変わったブーツ、 これらが、彼女のために作られたと言っても過言ではないほど似合っていた。 今のところ、今日このカフェの中で見た誰よりも眺めた時間が長い。 言うまでもない。タイプなのだ。 正直、ただ感心して終わりたくはない。 これは癖だ。 前に読んだ小説の主人公が、トイレに行く間、 隣の女の子にPCの見張りを頼むという戦略を使っていた。 あいにく今日はPCを持っていない。 片手に持っている物は、全く格好がつかない短編集だ。 それがあまり面白くなかったせいで 周りの客を見渡すことになっていたぐらいだ。 これをネタにして話ができるとは考えられない。 それに今日はすぐに帰る予定だったため冴えない服装だ。 こんな格好では、彼女の完璧なコーディネートに太刀打ちできない。 そもそも、彼女は美人だ。 彼氏がいるはずだ。 最初から勝機は無い。 しかし突然、 目標や問題点に対して、どうすれば到達、解決できるのかを考えるべきだ という一文を思い出した。 この間、寝る前にベッドの上で読んだ自己啓発本の一文だ。 読書が役に立つときが本当に来るのかと思いつつも、 気休めに続けていた甲斐があったのかもしれない。 バジリスクに襲われ、絶対絶命の危機に陥ったハリーポッターのそばで、 組み分け帽子がグリフィンドールの剣を出現させたときのような感動だ。 さあ、どうする。 あれこれ考えているうちに彼女のアイスカフェオレは半分に達していた。 パッと思いついた方法を挙げておこう ・突然、「2杯目は僕がおごりましょうか?」と声をかける ・席を立ち、「まだ、ここにいるつもりなのでトイレに行く間、        この小さい鞄を見張っててもらえますか?」 ・「突然失礼ですが、とてもタイプです。   用が済んだら、なるべく空いているお店で、お茶か昼飲みでもしませんか?」 ・「そのブーツってまさか、オニツカタイガーですか!?」 どれでいこうか。 まだ、他に良いアイデアがありそうな気もする。 しかしあまり時間は残されていない。 というか、こんなに時間が経って大丈夫か。 今更!?ってならないか?  ずっと黙って私のこと考えてたの!? きも! ってならないか? まずいまずい。また挑まない理由を考えそうになった。 ここで挑戦できないような奴にこの先何ができるというのだ。 誰かに暴力を振るわれるわけでも、大金を失うわけでもない。 というか何も失わない。 よし、いこう。 もう、いこう。 「お姉さん取り込み中にすいません。」 声に出さず、目で「はい?」と言っている。 「そのブーツはオニツカタイガーですか?」 「いや、違いますけど、、、」 なに、これは予想外。でもカッコいい。 「、、、あ、違ったか!いや、でもかっこいですね!」 「はあ、どうも」 「ぼく、服が好きでオニツカとかが特にすきっだったもので、、、」 「あぁ、そうなんですね」 「そのセットアップも素敵ですね!お姉さんのために作られたように似合ってます!」 「ありがとうございます、、、」 少し笑った。 「そもそも、タイプなんですよね。」 「、、え、あ、はい」 「用が済んだら、なるべく空いているお店で、お茶か昼飲みでもしませんか?」 、、、、
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