魔法音楽科には天才がいる

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魔法音楽科には天才がいる

「うぉぉ、キンチョーする……!!」 「気の小せぇ奴だな」  あの日から三日後、七海達は試験評価を見に来ていた。  試験の結果は簡潔にいえば大成功。演奏が終わった途端、ホール内は拍手の音で埋め尽くされた。スタンディングオベーションである。それも、審査員を務める教師達の中に号泣してる人もいた程。  試験はペアのいない場合は失格とみなされる。だから、直前まで組むもののいなかった夏那も、無理にステージに上がり、勝手に演奏した七海も、本来は試験失格のはずだった。しかし、夏那のペアが無断で組手を変えたこと、このトラブルが仕組まれた事だったと発覚したこと、演奏が素晴らしかった事により、七海達はお咎め無しとなったのだ。  試験のあの日、夏那のペアは七海の仮説通り、グルだったらしい。  七海と組んで少しでも評価を上げたかったが、その為には放課後、いつも七海の周りをウロチョロていた夏那の存在が邪魔だったらしい。相手が決まっているなら流石に誘わないだろうと思い、夏那に先にペアを用意したのだという。  夏那は一年生のなかで"楽器の弾けない劣等性"と呼ばれており、入学早々に才能に伸び悩んでいた生徒たちのストレスのはけ口になっていた。そんな奴が、試験で赤っ恥をかけば、それと対比されて自分の評価が更に上がるという算段もあったのだというのも、七海の仮説と完全に一致していた。七海は相手が狡すぎて、逆に感心した。  教師陣は今回の件で生徒の人としての質が落ちているとして、事件に加担した生徒らに然るべき罰を与えたと聞いたのは、試験から数日経った日。どんな罰だかは七海達は知らないが、風のうわさでは宙に浮いた箒に逆さ吊りされただの、ピアノ演奏を1日中やらされただのと言われている。二人は実際には見ていないから真相は定かではない。七海は遠い目をした。 「なっなななな七海っ見ろこれっ!! エスッS評価だよ!!」 「はぁっ!!?」  七海の驚愕した声に、我にかえる。  評価は一番下がF評価、一番上がS評価だ。つまり七海達は一番上。夏那はすげーすげーとぴょこぴょこ跳ねてはしゃいでいる。  七海は正直、お咎め無しになったとしても、評価は落とされると思っていた。  片手を握りしめ、喜びを噛み締める。すると夏那が跳ねるのをやめ、真剣な顔をしてこちらを見る。 「そいえばさ、なんであの時あの曲弾けたの?」 「はぁ?」 「ほらあの曲。私が作った奴だし、ちょっとガタガタしてたじゃん。いくら七海でも手直しした上で練習しないと、あんな完璧に弾けないだろ?」  七海は途端、顔を赤らめ、視線を彷徨わせた。 「……お前がいない間、一人で練習してた」 「えーっ!! 何で!?」 「好きだから」 「へ、」  七海は、彷徨わせていた視線を夏那に固定し、真っ青な目をしっかりと見つめる。 「あの曲、好きだから」  夏那はきょとんとしていたが、やがて満面の笑みを浮かべる。 「私さ、あの曲の名前やっと決めたんだ!!」 「ふーん、何にしたんだよ」 「ふふん、それはなぁ――天才の親友に送るうた!!」  七海はきょとんとしたあと、夏那を鼻で笑う。 「センスねぇな、お前」 「なんだと!?」  夏那は七海を謝ればかとポコポコ叩きながら怒るが、七海にはちっとも効かない。それどころか馬鹿にしたように更に笑った。夏那はムキになる。 「んがーー! せっかく曲名に七海クンを入れてあげたのに、何だその態度は! ムカつく!」 「俺の名前が何処にあんだよ」 「あ? ちゃんと入ってるだろ、"天才"って」  七海は目を見開いた。夏那から天才と言われたのは初めてで、思わず変な顔になる。 「え、なんだその顔。七海、私にピアノ教えるって言った日に、自分で言ってたじゃん」  夏那はニヒと笑い、「天才なんだろ?」と聞いてくる。その時にはもう、七海の中のコンプレックスは無くなり、代わりに温かい気持ちが溢れていた。  七海は思った。  魔法音楽科には天才がいる。  それは紛れもなく、こいつの事なんだと。
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