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ラノベみたいな再会
夏休みも終わり、二学期が始まると教室内は文化祭の出し物はどうするか、とかの内容で談笑するクラスメイトが増えた気がする。
確かに夏休み後の学校行事がなんなのかと聞かれると百人中百人が文化祭と答えるくらいになるだろうけど、あと一ヶ月くらい先の話を今する意味はあるのだろうか?
僕、汲沢透はそんなことを考えながら、イベント前特有の喧騒を無視して机に突っ伏し、目を瞑る。
あ、僕はそういう話は基本的にしないよ?
高校二年生の二学期というこのタイミングでも未だにクラス内ボッチを決め込んでるからね。
まぁそれはどうでもいいか。
別にクラスに友人がいてもいなくても、どうせクラスメイトなんて3年生に進級すれば疎遠になる奴もいるだろうし、浅く広くの交友関係より、狭く深くの関係で充分だと思わない?
それに文化祭に参加するなら、ソシャゲの限定ダンジョンの周回とか、家でアニメを観る方がよっぽど有意義な過ごし方でしょう。
先に言っておくけど、捻くれてるわけじゃないと思うけどね僕は。未来を見据えてるとかそういうアレってことで。
そんな自問自答をしているとブレザーのポケットに閉まってあったスマートフォンがブルッと震え、何かしらの通知を知らせてきた。
モソモソとしながらスマートフォンを取り出して通知を確認する。
『期間限定ダンジョンが解放されました』
はいキタコレ。
まさに有意義な時間の過ごし方筆頭候補、ソシャゲの限定ダンジョンの解放を知らせる通知だった。
時計を確認すると、朝のホームルームまではまだ余裕がある。……赴くか、戦場に。
限定ダンジョンは限定というだけあっていつ解放されるか分からない。朝かもしれないし昼かもしれないし寝る前の深夜かもしれない。
僕はいつ解放されてもいいように既にパーティ構成は考えてあるから設定だけすればすぐにダンジョンに潜ることができる。
これ、周回するならみんなやるよね。
アプリを起動させ、すぐさまにパーティを構成すると僕は期間限定ダンジョンを選択して戦闘を開始する。
自キャラの戦闘コマンドを攻撃に設定して見守る。
よし、このままオートで進めても問題なさそうだ。
僕が安心してふぅ、と息を吐くと同時くらいに教室の扉が開かれ、爽やかなイメージがある男子生徒が「皆おはよう」とか言いながら教室に入ってきた。
金沢悠くん。
地味な見た目、平凡な学力であり、更には眼鏡を装備し、極め付けには女子に「うわ学校でもゲームしてる、キモ」とキモがられたことのある僕とは正反対に、誰が見てもイケメンと評される高い顔面偏差値に、定期テストでは常に上位を維持する高い学力を持つ人であり、女子からは人気が高く、更に誰にでも笑顔で話しかけてくる好青年。
しかもダンス部に所属していて、ダンスは高校から始めたとか言っていたのに、今ではダンス部に欠かせないくらい上手くなっているとかなんとか。
天は二物を与えずとか言うけど、彼は正真正銘の天が三物以上与えた存在だ。そりゃあ説明口調にもなるって。
「悠〜、おはよ」
「おいっす、今日も頑張ってんねぇ」
「おはよ、藤沢に大船。大船は……この時間にいるってことはまた朝練サボったのか?」
「まぁね〜」
「大船はホントサボり魔よね。嫌われるわよ」
「それでも俺はサッカー上手いから嫌われないんだよなぁ」
「ムカつく態度」
金沢くんが席に座ったタイミングで二人の男女が話しかける。
確か男子の方は大船嶺二くん。サッカー部に所属してる所謂陽キャであり僕みたいな隠キャの天敵みたいな見た目している青年だ。
チャラチャラしてる雰囲気通り、言動も行動もチャラチャラしてる。現に朝練サボってるらしいし。ただ体育の時間とかで観る限り運動神経は高い。ただまぁ僕みたいなやつは一生関わりのない人だ。
女子の方は藤沢葉子さん。可愛いというより美人に分類される方の美少女ではあるが、これまた天敵である。なんでか知らないけど向こうは僕みたいな陰キャに対して親の仇かってくらい気持ち悪がられてるし。
校則違反のピアスは付けてるし、髪色も明らかに染めている。
大船くんと同じように僕の今後の人生において明らかに友人に分類されることはないだろう。
ただ唯一。彼女が今も首にかけているヘッドフォンの趣味はかなり良いと思っている。あれ、まあまあ高い金額のやつなんだよね。僕も買おうか悩んだやつ。
まぁヘッドフォンはさておき。彼ら三人は誰が見ても分かるくらいこのクラスのヒエラルキートップに君臨する人たち。そういう認識だけしておけばいい。
こっちから話しかけることなんてないからね。
さて、限定ダンジョンの方はと……お、無事にオートでクリアしてる。
ということは……もう一回潜って、スマホをポケットにしまって放置したままホームルームを受ければクリアできるなこれは。
うちのクラス担任は普通にチャイム前にやってくる人だからスマホを机に出しっぱなしとか油断ならないし。スマホ没収されたら舌を噛み切る自信があるわ。
報酬を受け取り、もう一度を選択して再度戦闘コマンドを設定してスマホをポケットにしまった。
○○○
いつものようにチャイム前にやってきた無精髭を生やした社会科を担当する担任は教室内を見渡して「席につけー」とクラスメイト達に言う。
大船くん、藤沢さん含めた他のクラスメイトが自分の席についたの確認しながら担任は辺りを見渡して休みがいるかどうか出席簿と空席を交互にチェックする。
そういえば、僕の隣の席が空席のままだ。もしかして休みなんだろうか。話とかはしないから別にいいけど。
「よし、全員いるな。ちょっと早いがホームルームを始めるぞー。まずは転校生を紹介する」
転校生。この言葉を聞いたクラスメイトが「今日だったのか」とか「よっしゃ! 女子か、男子か、女子か女子か!?」とざわざわしだす。
あぁそういえばすこーし前にそういう話を担任がしていた記憶がある。僕は早く帰ってアニメ観たいなとか考えてたから今の今まで忘れてたけど。
「入ってくれ、日限山」
教卓側の扉から一人の女生徒が教室に入ってくる。
彼女は藤沢さんとはまた別ベクトルの美少女だった。長い黒髪にパチクリとさせた大きな瞳。個人的なイメージだと夏によくやってる制汗剤のCMとかに出ていそうな透明感? 上手く言えないけどそういう感じを思わせる。
「はじめまして、日限山綾那です。小学校1年生まではこっちに住んでたんですけど、また戻ってきました。前の学校ではダンス部に所属してました、よろしくお願いします」
彼女、日限山さんは笑顔でそう言った。そしてなんとなく。ほんとになんとなくだけど、僕は彼女を知っている。そんなふうに思った。
別に気持ち悪い感じの運命がどうたらじゃない。ただ単純に彼女をどっかで見たことがあるってだけのそれだけのことなんだけど……。
まぁ気のせいかな。多分制汗剤のCMで似てる人と勘違いしてるんだろう。あまり女優とかには詳しくないけど、多分そう。うん。
「いろいろ話を聞きたければホームルームが終わった後にしろよ。とりあえず、日限山はあそこの空いてる席、汲沢の隣に座ってくれ」
「はい」
担任の方を向いて頷いた日限山さんはこっちに向かって歩いてくる。ま、僕の隣の空席が今日から自分の席になるんだから当たり前だけど。
なるほどね。だから隣の席は空席だったわけだ。
席について、荷物を机の上に置いた日限山さんは何度かチラチラとこっちを向き、意を決したかのような顔ををしつつ小さな声で話しかけてきた。
「ねぇ、汲沢くんってさ、苗字が汲沢ってことは……下の名前ってもしかして透?」
「え、う、うん」
「妹さんの名前、円佳?」
「そうだけど……」
なんでこんな個人情報知ってるんだ?
もしかしなくても、本当に僕と彼女はどこかで会ったりしていたのかな……。
「え、じゃあキミって透ちゃんだよね? 面影が若干あるし……久しぶり、元気だった?」
「え?」
「……ありゃ、覚えてない? 昔あんなに遊んだのに」
昔、あんなに遊んだ……? 透ちゃん?
バカ言うなよ、こんな美少女と遊んだ記憶なんて無いし、透ちゃんと呼ばれたことなんて……あ。
ある、あるわ。思い出した。僕、透ちゃんって呼ばれてたことあるわ。
まだ僕が世の中の汚れに触れず、なおかつ深夜アニメに出会ってなかった幼稚園の時。わりかし家が近くて親同士がまあまあ仲良かったからよく遊んでて、小学校上がるちょい前くらいに親の都合で東京だかそっちに引っ越しした女の子。
えーと確か僕はその子は……そうだ、綾ちゃん。
「もしかして綾ちゃん?」
「なんだよかった、覚えてるじゃない、私のこと。そうそう、あの綾ちゃんだよ」
十数年ぶりに再会した幼馴染、日限山綾那は屈託のない笑顔をこちらに向けた。
え、ちょっと待って。昔引っ越した幼馴染がこっちに戻ってきてて、僕と同じ高校に転校してくるとか、なにこれギャルゲー?
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