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「え、ぐっさん。それなんてギャルゲー?」
「やっぱりそう思う?」
驚愕のホームルームから時は流れて放課後。
大体の生徒は部活やバイト、またはさっさと帰路についたりで人が少ない教室の中で僕は別のクラスではあるけど、数少ない友人である安浦こと、やっさんに綾ちゃんの一件について話していた。
やっさんとは一年の時に趣味を通じて出来た唯一の友人で、僕と同じようにクラスでは肩身が狭い思いをして生きている。まぁやっさんも僕も誰かにいじめられてるってほどじゃないけど、クラスメイトの嘲笑のような視線は常に浴びている。
だからこうやって教室にほとんど人がいないタイミングを見計らったり、後はどこか人の少なそうな場所とかで会話しないと陽キャたちがヒソヒソ何か言ってるのが聞こえてくるのだ。
やっさん曰く、「眼鏡でニキビ面の俺を馬鹿にしてくるようなヒソヒソ声がたまらなく辛い」だそうで。でもやっさんはニキビがすごい多いわけでもないし、僕だって眼鏡をかけていて、他の人より前髪だって長くてなんかキモいって言われたりするからそんな気にしなくても平気だとは思うんだけどね。
ちなみに僕が通う高校は付近の高校に比べると偏差値は普通よりちょっと低いレベルだ。
それ故に部活に打ち込むためにここに入学した金沢くんのような人や、チャラチャラした不良寄りの生徒、校則をガン無視したギャル、僕が言えたものじゃないけど多分家が近かったとか大した理由もなく入学した無個性生徒。最後に僕とやっさんのようなオタク趣味を持つ生徒の五種類に分けられる。
五種類のうちの三種類は全員が全員そういう訳じゃないだろうけど、大体がオタクを馬鹿にする傾向のある人たちだから、結局僕らみたいな最底辺は間接的に虐げられている訳だ。悲しいよね。
「で、なんもなかったの? こう、なんて言うかスチル解放しそうなイベントは」
「なんもなんも。ホームルームが終わったら他のクラスメイトがこぞって話しかけたりで僕の出る幕なんて無い無い」
「はー、つまんな。普通はさ、なんかこう、あるじゃん? 連絡先の交換とかさ」
「無いねー」
実際な話。それすら無かった。
今日はもう休み時間ごとに日限山綾那の周りには男女のクラスメイトがひっきりなしに集まっていろいろと質問をしていた。
それこそ、こっちの高校では部活に入るのかとか、今日一緒にお昼ご飯食べようとかそんなヤツ。男子に至っては彼氏とかいるとかふざけ倒したことを聞いてるやつもいる。まぁこれを聞いてたのは大船くんだけど。やっぱりあの人はチャラいな。嫌いだ。
あ、僕? その間の僕は隣の席で誰とも話すことなく限定ダンジョンで手に入れた報酬を眺めていました。いやぁこの報酬は美味しいなぁとか思いながら。
いやだって今更話すこととか無いし。久しぶり元気だった? くらいでしょう。ちびっ子だった時は手紙を書いたりしてたような気がするけど、今じゃあ忘れてるくらいだったからね。
「はー、そんなもんなんだねぇ〜」
「そんなものよ、幼馴染との再会なんて」
「うわそれ、幼馴染を持たざる者としてはムカつくなぁ」
あはは、と笑い合って話に一区切りがついたところで「そういえば」と、やっさんが言った。
「ぐっさんって今アニメ何観てるんだっけ?」
「ん、深夜は″フリーターが魔法少女の精霊に転生した件″かな」
「出た″フリまほ″! 今期のぶっちぎり覇権候補!」
やっさんが嬉しそうに答える。
「あれは覇権確定、主人公の担当魔法少女のハルが可愛いよね、普段は野暮ったい感じの地味〜な女の子なのに変身したら美少女! よくあるような展開だけどそれが好き」
「わかる〜、しかも隠れ巨乳って設定もあり。変身中揺れる揺れる。アレで中学生は無理あるでしょ」
僕ら二人の中での会話鉄板ネタである漫画や深夜アニメのサブカル関連。このテの会話なら一日は語り続けられる自信がある。一日は言いすぎたかな、半日……くらい?
まぁとにかくそれくらい僕らの中でアニメや漫画は切っても切れない関係ってことだ。
「ぐっさんはニチアサオタだよね? 子供向け魔法少女と比べるとどうなん?」
「うーん、″フリまほ″も良いけど、やっぱりニチアサは神よ? 当たり前だけどエロに媚びない姿勢、子供向けとは思えないほどの熱いシーンもあるし、名言の数々。ニチアサ観ると生を実感するよほんと」
「また語るねぇ、ぐっさん」
ケラケラと笑うやっさん。
正直僕は深夜アニメも観るけど、絶対に見逃せないの常に思っているのは日曜朝のアニメと特撮ドラマ。通称ニチアサタイムだ。
毎回録画しているけど、それでも目覚ましをかけて起きてみている。
「いやほんとニチアサ良いよ? シリーズが変わるごとにエンディングのダンスのCG進化してるし」
「あー、それは凄いってよくSNSで言われてるよねぇ」
「やっさんも観た方がいいよ、そして一緒に映画を観に行こう! ミラクルライトは小学生までの女の子しか貰えないけど……」
「欲しかったんだ、ぐっさん」
「当たり前よ」
初めて映画観に行った時に貰えなかった絶望感はなかなか味わえないよアレは。
「ま、ぐっさんがニチアサアニメ大好きなのは嫌と言うほどよく分かったよ。よっしゃ、タイミング良いし帰ろうぜ」
そう言って、そそくさと荷物をまとめ始めたやっさんに対して、はぁ、とため息を吐きつつ僕もカバンに荷物を入れて帰り支度をする。
「やっさんっていつも僕がニチアサ語る時そんな感じで切り上げるよね」
「いやいや毎週月曜に、今週のニチアサ観た? からのその週の回の内容全部説明されちゃったらこうなるって。正直お腹いっぱいよ? 思い返してみ、ぐっさんの月曜日の会話デッキ、絶対採用されてるから」
そう言われて思い返してみると、毎週月曜はそんな風に聞いているような気がしなくもない。
そうか、僕は毎週聞いていたか……布教活動頑張ってるじゃん。
「ま。それは置いといてさ。帰り暇ならゲーセンにでも行かない? クイズのやつやりたいんだよね」
「うん、いいよ。暇だし」
席を立ち、教室を後にする。
チラリと校庭に面した窓の外を見ると、サッカー部の面々が一生懸命にグラウンドを走っていて、野球部は声を出しながら外野練習ってやつをしている。
「頑張ってんねぇ運動部は」
「そうだねー、大会近いのかもね、知らないけど」
「まぁ俺らには縁のない世界だ、行こうぜぐっさん」
そそくさと廊下を歩きながらやっさんと談笑しつつ、下駄箱で靴を履き替える。
ここでの話題はまた綾ちゃんだ。やっさん的にはやっぱり色々と気になるみたいで、色々と根掘り葉掘り聞いてくる。
答えたくないものなんてないから全部普通に答えてるけど、ここで思ったのが、意外と思い出せるものだなってことかな。すっかり彼女の事なんて忘れていたけどね。まぁ小さい頃に遊んでた女の子いたなぁくらいの記憶しかなかった。
「でもさ、その幼馴染の日限山さん? 見てみたかったわ。どれくらい可愛いのかとかさ」
「野次馬魂すごいね」
「当たり前だろ? こんな俺でも女の子関連の話題に興味がないわけじゃないんだから」
「なるほど」
うわぁ、見に行けばよかったと心底後悔していそうなやっさんに適当に相槌をしつつ歩いていると、校門前に見覚えのある容姿の女生徒が立って誰かを待っているのが見えた。
たった今話題にしていた噂の綾ちゃんだった。早速新しく出来た友人と帰る約束でもしていたのだろうか。
友達が早速出来たようで何よりだ。まぁ彼女の容姿とかコミュニケーション能力を考えれば妥当な結果か。僕なんかとは大違いなんだから。
「ねぇ、やっさん」
「ん、どしたよ」
「あそこで立ってるのが日限山綾那だよ」
「え、マジ?!」
すぐに視線を前の校門に移したやっさんはそのまますぐに「いやぐっさん、日限山さんめっちゃ可愛いじゃん!」と鼻息を荒くして答える。
「あ、透ちゃん!」
やっさんの視線を感じ取ったのか、こちらに向いた綾ちゃんは僕の存在に気づいたようで、手を振って近づいてくる。
この間にもやっさんは小さな声で「やべぇ、近づいてきたぞ、なんか言った方がいいのか、緊張してきた」とか呟いていた。反応が初めて動物園のパンダを見たときの僕みたいな感じだけど。
「どうしたの、綾ちゃん。誰か友達待ってたの?」
「うーん、まぁそんな感じかな? 透ちゃんのこと待ってたんだよ」
「え、僕?」
「うんうん。もしよかったら一緒に帰らないかな〜? って。ほら休み時間とか話せなかったから」
それでわざわざ校門で待っていたのか。先に帰っていた可能性もあったわけだし、なんか悪いことしたな、教室に来てくれたら僕はいたんだけど、まぁそれを伝える手段もなかったしね……。
にしても、これはダブルブッキングというやつになるのか?
やっさんとゲーセンに行く予定を切り出すべき、だよね。やっさんに申し訳ないし。
「もしかして、友達とどこか遊びに行く予定でもあった?」
悲しそうな顔をする綾ちゃんに対して僕が「まぁ一応そういう予定があって……」と言う前に、「い、いや大丈夫だよ! 俺は本屋行く予定があったから帰る方向反対側だったし! じゃあな、ぐっさんまた明日!」と捲し立てるように横にいたやっさんが言い、そのまま逃げるようにこの場を後にした。
じゃあね、の一言も言えずに帰っていったね、やっさん……。気を利かせてくれたっていうのは僕にでも分かる感じだったけど、ゲーセンは大丈夫だったのかな。
今日夜に謝罪の連絡入れておこうか。
「……ええと、じゃあ帰る? 綾ちゃん」
「う、うん。でも良かったの? 友達と一緒に帰る雰囲気だったけど」
「まぁ……やっさん予定あったっぽいし」
「そう? でも次会ったら急にごめんねってそのやっさんに私も謝っておくよ」
もうやっさん呼びか。距離の詰め方が陽キャのそれだよ、綾ちゃん。流石だね。
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