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気づけば空は茜色に染まり始めていて、僕らは一旦休憩することにした。
「け、結局一〜二時間くらいやっちゃったな……」
はぁはぁと息を切らした僕はその場に座り込む。
久々にこんな汗を流し、ワイシャツが肌に張り付いているような感覚がある。一応肌着は着ているんだけど、無駄だったみたいだ。
「割と熱中しちゃったね、でもでも意外と透ちゃん動けてるよ! 後は欠かさずやればとりあえずアイソレーションは完璧かもね?」
「まぁちゃんと踊るって決めてないけどね……」
僕と同じように汗を流している綾ちゃんはタオルで背中やら色々と汗を拭う。僕と言う男子がわりかし近い距離に居るのにもお構いなしで汗を拭くからおへそだったり何かしらがチラチラと見えているので目のやり場に困る。
というか流石ダンスやってただけあって、綾ちゃんは体力にはまだ余裕があるんだろうか。ちょっと汗かいてるくらいでなんとも無さそうだ。僕なんて床に座り込んでいるのに。
「そっか……透ちゃんとかはピッタリだと思ったんだけどなぁ」
「ピッタリ?」
首を傾げ、なんでピッタリなのか考える。
別に運動神経がいいわけでもないし、なんならメガネかけてオタクって言うある種対極に位置するような存在なのに?
「だってほら。あんまりうまく言えないけど、ダンスって自由だから。誰に何言われようとも自分を貫けるっていうか、そんな感じ?」
「なんだそれ」
「だから、うまく言えないけどって言ったでしょ?」
自由、ね。最初の綾ちゃんの即興だって自由に踊った結果なわけだしね。
オタクでもそうじゃなくても関係なしに誰もが自由に表現出来る感じが心地いいよ? ってことかな?
「うーん、とりあえずダンス部には絶対入らないけど、こうやって時々踊るくらいはいいのかもね、気分転換にもなるし」
「ほんと? じゃあ時々踊ろうよ、週三くらいでどうかな?」
「それは時々じゃなくて割と頻繁な気がするけどね」
「でもでも知り合いで踊る人が増えてくれて嬉しいな」
ニシシ、と笑う綾ちゃん。
うん。いい笑顔だ。数年ぶりに会ったけど、笑顔は昔と変わらない気がする。気がするだけかもだけど。
「あ、そうだ透ちゃん、夕飯はどうする?」
「ん……あぁもうそんな時間か」
よいしょっと立ち上がり、軽く肩を回す。
今のところ不調はないけど明日は筋肉痛かなぁ、久々に筋肉痛とか味わうな僕。ここ数年は体育の授業とかも真面目に動いたことなかったし。
「帰るよ。流石に夕飯の時間までお邪魔するのは悪いし、家で母さんが作ってるだろうから」
「残念だなぁ、夕飯くらい食べていけば良いのに……私が作るわけじゃないけど」
「それはまぁ、またの機会にってことで」
ブレザーを着てカバンを背負い、忘れ物がないかを確認してから玄関に向かう。
玄関先でチラリとスマホを確認すると、妹から早く帰ってこい、クソアニキとありがたい言葉が届いていた。こりゃあご飯出来てるな。
「じゃあまた、学校でね透ちゃん」
「うん、今日はありがとう。割と悪くないなって思ったよ」
「良かった〜、安心したよ」
「それじゃあまた明日、綾ちゃん」
そのまま玄関先で手を振る綾ちゃんに手を振り返し、自宅までの道を歩く。
九月も中頃なだけあって辺りはすっかり真っ暗になっており、住宅街の道を照らす街灯が点灯している。
さっきまで動いていたからか、火照った身体に冷たい風がちょうど良いなとか思いながら僕はスマホを取り出して動画アプリを起動させる。
「……ダンス、洋楽で調べたら出てくるかな」
僕がスマホを持ってから長いこと経つけど、動画アプリの検索履歴にアニメ関連じゃないのが残るのは初めてのことだった。
意外と僕は今まで接点が全く無かったダンスに対して興味を持ち始めてるのかもしれない。
陽キャも陰キャも関係なく、自由にやりたいことをできるって事に何か感じるものがあるのかな。
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