ラノベみたいな再会

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 次の日も学校があるってことを考慮していなかった僕はあのまま二〜三時間くらい色々な動画を漁りつつ練習をした後に慌ててベッドに入り眠った。  そして日が登り、いつも起きている時間になって目が覚め、昨日懸念していた問題が発生する。 「い、痛い……」  そう、筋肉痛。  普段の運動は授業の体育で済ませているインドア系の僕にとって、綾ちゃんほどではないにしろ激しい運動に分類されるダンスを踊ったわけだ。筋肉痛になるわけだよ。まぁ正確にはダンスではなくてその基礎練だけど。  首、胸、腕、太ももといった部位すべての筋肉が悲鳴をあげている。筋肉痛パラダイス。  ベッドから出るのも一苦労だったけど、まるで虫の如くベッドを這い出ると、我慢しながら階段を降りて洗面所に向かうと先客がいた。 「うわ、兄貴だ」  先に歯を磨いていたマイシスターである円佳(まどか)は僕の顔を見るなり苦虫を噛み潰したような顔をしてこっちを見る。  円佳は今年で中学三年生。いわゆる反抗期とか思春期とかいう時期でなにかと僕を馬鹿にし、下に見ている節がある。まぁ円佳が僕と同じインドア系なら兄として一言ガツンと言ってやろうと思うけど、円佳は霊長類アウトドア亜目陽キャ科に分類している。コミュ力は高いし、休日は友達と遊びにでかけてたり、もうほんと正反対。同じ血でこんなに違う? って感じ。 「存在が望まれていない黒い害虫を見た時みたいにに呼ぶのやめてよ」 「はいはい、ごめんね。いつにも増してブサイクだから早く顔洗えば?」  普段ならブサイクは余計だとか色々と軽口を叩くけど、今日は筋肉痛のせいでそうも言っていられない。言われた通りに顔を洗い、そのまま歯ブラシを手に取って僕も歯を磨き始める。 「……」 「……」  歯を磨く音だけが洗面所内に響く。  ちなみに毎日こんな感じだ。特に共通の話題が無ければ喋ることすらない。廊下ですれ違っても基本スルーだからね。円佳がたまに僕のことを馬鹿にしてきた時がまともに喋る具合。  先に歯を磨き終えた円佳は特に何も言わずに洗面所を後にして、僕だけが残った。  「……あ、昨日やっさんに謝罪の連絡忘れてた」 ○○○  今日は登校するにも時間がかかるだろうと思った僕は、いつもよりだいぶ早く家を出ることにした。  通学路に同じ高校の制服を着た人たちは殆どいない。もしかして五種類に分けられない新しいグループである自ら早く登校して自主勉強とかそういう意識高い系が多いのかな。まぁどうでもいいけど。  普段登校している時の誰かの話し声と言った喧騒がない静かな登校時間を過ごした僕は無事に学校に到着する。下駄箱の上履きを見る限りだと片手で数えれるくらいの人くらいしか登校していないみたいだ。  このまますぐに教室に向かってもいいけど、なんとなく喉が渇いたなと思った僕は上履きに履き替えた後に中庭にある自販機に向かうことにした。 「お、すごい。色々揃ってる」  この校舎と体育館を繋ぐ中庭の自販機は最近になって高校生が愛飲するミルクティーやスポーツドリンクなど色々な飲み物が多く揃い始めたと割と有名だったけど、それは本当だったみたいだ。  普段なら休み時間は陽キャの溜まり場でもあるし、体育館での授業の時は憂鬱だからそこまで気が回らないし、終わったら早く帰りたい気持ちでいっぱいだったから確認すらしていなかった自分を殴りたい気分。  財布から小銭を取り出し、自販機に入れていちごミルクを購入した僕はそれを喉を鳴らしながら飲む。 「うーん、美味っ」  いちごミルクを飲みながら辺りを見渡すと、ベンチやテーブルも端の方に置いてあるし、確かに溜まり場としてはかなり優秀な場所だ。  ベンチに座り、小さく息を吐く。  久々に気持ちいい朝を迎えてるな、そんな気分だった。
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