ラノベみたいな再会

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 目を瞑り、九月中旬特有の地味に暑い感じを肌に感じていると、どこか遠くで何かの洋楽が聞こえた気がする。  昨日色々な洋楽とかを聴きすぎたお陰で幻聴でも聞こえ始めたかと思って、耳を澄ましてみると確かに聞こえる。それなりにテンポが速い曲。  僕の予定だと後は教室に行って惰眠を貪ったりスマホアプリをして時間を潰……有意義な時間を過ごすくらいしか用がないから、どうせなら音が聞こえる場所を探し当てることにした。  暇だし、たまには校内探検と洒落込もうじゃないか。そんなことをするには一年くらい遅かったけど。なんたって今の僕は高校二年生だからね。 ○○○  音の出所は割とすぐに見つかった。  俗に言う武道場というところからで、どうやら朝練の場としてどこかの部活が使っているらしい。  ま、洋楽を大音量で流す部活なんて、多分一つしかない。  たまたま前を通ったようなフリをしつつ、僕は武道場内を覗き込む。 「やっぱり、ダンス部だ」  金沢くんが所属しているダンス部。  武道場内をみると男女比がなかなかにすごく、女子九割に男子一割って比率の中で皆が真剣に踊っていたり、自主練みたいなのをしているのが分かった。  もちろん、金沢くんの姿もある。  動きやすそうな上下のジャージにニット帽を被った彼のその表情は真剣そのものだった。  金沢くんは僕の家の姿見鏡より大きな鏡の前でテンポが速い曲に対してリズムを取り、音楽に合わせて両手を体の前でクロスさせ、両手を左右に開くときに片足を出す。そういう動きを何度か繰り返したかと思うと、両手両足を地面に着けてから上半身を軸にしてステップを踏み始めた。  そのステップはどことなくコンパスを彷彿とさせる動きで小刻みに足を動かしている。  そして曲の一番の盛り上がりであるサビに値する部分で彼は地面に背中をつけ、両足を開き、勢いよく回転し始めた。  ……こうやって金沢くんが踊るのは見たことが無かったけど、綾ちゃんとは違って随分とアクロバティックなダンスを踊っているんだな。  確か、えーと……アレだ。ブレイクダンス。  陽キャ男子なら一度は踊ってみたいダンス筆頭とも言えるジャンル。  かなり難しそうだし、筋肉も使いそうだけど……あれだけ動けててダンスは高校から始めたって、金沢くんはかなりの化け物なんじゃないか?  僕みたいなやつから見てもアレはかなりレベルが高い。そんなふうに見える。 「なんか楽しそうだな」  小さくそう呟き、このままここで見ていたことに気づかれたら何か言われそうだなって思った僕はそそくさとこの場を後にする。  とりあえず教室に行って、スマホアプリでもやって時間を潰すことにしよう。 ○○○  ブレイクダンスというのは四つくらいの動作を流れで踊るダンスらしい。  金沢くんが踊っていた順番で言うなら、最初の立って踊っていたやつ。両手をクロスさせて片足を出すと同時に両手を開くようにして踊っていたのをトップロックと言うそうで、いわゆる導入部分ってやつだ。  トップロックをやった後に踊るのがコンパスみたいな動きをしていたフットワークと呼ばれる足を使った足捌きのステップ。  フットワークの技名がなかなかに面白く、1歩とか2歩とか3歩とかの技名があったりする。実際に一歩で踊れるから1歩、みたいな感じらしい。    そして一番の見せ所である回転系のパワームーブ。  両手や肘、肩に背中、さらには頭を使って連続に回転する動きもあるらしい。  金沢くんがやっていたのは背中で回っていたから、ウィンドミルって技だと思うんだけど、アレもかなりアクロバティックだった。  最後にフリーズっていう体の動きを数秒止め、踊りを〆るための動き。  これは金沢くんがやる前に僕が移動しちゃったから見てないけどね。  と、まぁブレイクダンスは大まかに分けてこの四つを駆使して踊るジャンルのようだ。  実際はもう少し別の動きがあったりするから五〜六個の動きからいくつかを選んで踊る感じかな。  さすが情報化社会。ちょっとネットで調べるだけで色々と出てくる出てくる。  スマホから視線を動かし、教室に備え付けられた壁掛け時計を見て小さく息を吐く。  なんとなく分かるのは、このブレイクダンスっていうのは初心者には難しいだろうなってことだ。  踊れそうなら練習してみようとちょっと思ったけど、多分僕には無理だ。  筋力も技術も圧倒的に不足してるし、当面は基礎を練習するしかないかな。  そんな風に朝のホームルームが始まるまでの時間を潰していると不意にスマホはバイブレーションで何かの通知が来たことを知らせてくる。 『期間限定ダンジョンが解放されました』 「お、いいタイミング。今日もレアドロ頂くか」  いつものゲームアプリを開く。  やっぱり僕はこうでなくっちゃね。
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