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ダンスバトル
そして気づけば僕が綾ちゃんとの劇的な再会から二週間ほどが経過し、季節は十月になった。
残暑も遠のいて、今や露骨なほどに秋っていう顔を見せている。
この二週間で何か変わったかといえば、既に綾ちゃんはクラスに馴染んでるってぐらいだろうか。
僕と違って、彼女はコミュ力も容姿も良いし、僕とかやっさんみたいなオタクに対しても偏見なく話しかけたりするっていうのがポイント高いのだと思う。
僕なんてやっさんか綾ちゃん以外の誰かに話しかけようとするなら「あ、あの……あ、あ、いややっぱいいです……」みたいな会話しか出来ないし。
無意識にATフィールド張っちゃうんだよね、困ったもんだよ。
今だってひたすらSNSのタイムラインを更新し続けて時間潰してるからね。誰とも会話せずに。
まぁ、僕はさておき。
そんな綾ちゃんにもどうやら一つだけ弱点がある。弱点……では無いかな? なんていうか苦手としている人? とにかく僕はその弱点に向けて視線を移す。
「藤沢ちゃんさ、放課後カラオケ行かん?」
「パス、放課後は渋谷に行くから。アンタ部活しなさいよ」
「今日は自主トレ日だからな〜」
「ぜっったい嘘」
今日の部活をサボるのを公言しているあの人、大船くんの存在だ。彼、綾ちゃんと話すときは事あるごとに彼氏いる? みたいな会話にしようとするからね。最早なんか、チャラ男っていうかNTR系同人誌の竿役みたいに見えてきたよ。
その感じが多分苦手なんだろう、彼と話すときは笑顔がぎこちない。綾ちゃんが壊れかけのロボットみたいな動きになるわけ。
「ねぇ、透ちゃん」
一旦スマホを弄ってるフリをやめ、僕の肩をツンツンと指で突いてくる綾ちゃんの方を向く。
綾ちゃんは一瞬辺りを見渡し、こっちを誰もみてないのを確認すると「今日ウチくるよね?」と少し距離を近づけて囁いてくる。
あぁそうだ。この二週間で変わったことは僕もあったんだ。
週三か四くらいのペースで綾ちゃんと踊るようになった。言ってもまだ八回かそこらしかまだ踊ってないけど。
「そうだね、迷惑じゃなければ行こうかな」
そう話すと、綾ちゃんは「やった、放課後楽しみだね」と笑顔を向ける。
いい笑顔だ。人によってはその笑顔を向けられた時点でコロっと好きになっちゃうんじゃない? もはや兵器だね。
「あ、そうだ。透ちゃんは動きやすい服は今日持ってきてる?」
「え……あ、わかんない。ちょっと待って」
僕は鞄をガサガサと漁り、中を確認するとTシャツとスウェットが入ってるのが見えた。
そうだそうだ、すっかり忘れてた。綾ちゃんと踊るようになってから動きやすい服はとりあえず鞄に入れておこうとか考えてぶちこんだんだっけ。
「あるある、問題ないよ」
「そっかそっか、もし忘れても貸すから気にしないでね」
「あ、うん、ありがとう」
流石にそれは断るけどね。
僕みたいなやつが服を借りたって誰かの耳に入ったら綾ちゃんに迷惑かかっちゃうかもしれないし。
さて。そっちの話は置いといてだ。
この二週間の間、僕はアイソレーションを欠かさず練習していたおかげで大分身体の部位ごとの動かし方っていうのが分かってきた。
綾ちゃんが見せてくれた両手を使ったウェーブも拙いながらもなんとか出来るようにもなったしね。
そして二週間経って僕が思ったのが、僕は綾ちゃんが踊るようなHIPHOPってジャンルのダンスは合わないってことだ。
合わないというか、違和感を覚えるっていうか。こうピッタリハマらない? そんな感覚。
たかだか二週間練習しただけのやつが何を言ってるんだって言われたらそれまでなんだけど……一昨日くらいから動画サイトを見ながら練習しているやつがある。
僕はスマホにイヤホンを挿してから動画サイトを開き、朝学校に登校している時に再生途中だった動画の続きを見る。
流れている曲はバンッ、バンッ、バシッと言ったようなスネアドラムの音が聞こえ、更にはあまり他の曲では聞かないような特徴的な効果音も入っている。
動画の人物はスネアドラムの音や効果音に合わせて体を動かす。一瞬だけスイッチが入ったように動きを止め、また動かす。の繰り返しで、なんとなく二足歩行のロボットのように要所要所でカクついているような。
ジャンル名だと、この特徴的なダンスはPOP、と言うそうだ。
身体の部位ごとで筋肉を弾いてみせたり、ウェーブをしたり、録画した映像のコマ送り再生のように動く。
このダンスがなんだか一番自分に合っている気がしたのだ。
曲も聞いてて気持ちいいし、踊っていてピッタリハマる感覚、これが最高と思えてくる。
それに基礎練に基礎練を重ねて踊るっていうなんだかゲームの練習みたいな反復練習も苦にならないんだよなぁ。
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