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「ねぇ、透ちゃん」
さっきと同じようにツンツンと僕の肩を叩く綾ちゃんは少しだけこっちに身を寄せて視線をスマホに移している。
「……ん、どうしたの?」
「透ちゃんはPOPを踊りたいの?」
「んー、まぁそうなる、かな? 一昨日くらいに存在を知ったんだけど、踊ってて楽しいなって思えたし」
「そっかぁ、うん、いいと思うよ!」
綾ちゃんはうんうんと頷きながら、視線は僕のスマホに釘付けになっている。
僕の中で綾ちゃんは所謂ダンスの先輩、という立ち位置なわけだけど、そんな綾ちゃんの得意とするダンスはHIPHOPだ。
そして僕はPOPを踊りたい。
これはつまり、綾ちゃんにとってPOP畑違い。というやつなんじゃないだろうか。
「あの、さ。綾ちゃんはどう思う? 僕がPOPを踊ることについては」
なんとなくそう聞いた。
内心はやっぱり一緒に踊りたいとか思っているんだろうか?
「ん? 良いんじゃないかな?
確かPoppin……あ、POPダンスのことなんだけど、POPは人口は少ないし、初心者はとっつきにくいかな? とは思うな。
でもやっぱり、本人が踊りたいなら踊るべきだよ、多少難しくてもね」
「そういうもん?」
「うんうん、そういうもの」
そういうものか。まぁでもジャンルは違っても曲さえ同じなら一緒に踊ることは可能ではあるから、それでもいいや、って感じなのかな。
「透ちゃんもダンスに対して興味出てきたね? 最初はあまり乗り気じゃなかったのに」
「う、まぁ……ね」
「じゃあ今日の放課後、楽しいことしよっか」
ニヤリ、と妖しい笑みを浮かべる綾ちゃんに僕は若干の恐怖を覚えつつ、震え声で「お手柔らかに」としか言えなかった。
○○○
「透ちゃんも割と踊れるようになったと思うから、今日はバトルをしてみようかなって思います」
「バ、バトル?」
時刻は放課後。場所はいつもの綾ちゃんの家。
動きやすい学校指定のジャージを着た僕は、同じように動きやすい服装に着替えている綾ちゃんの言葉に首を傾げた。
「そ、ダンスバトル。一対一とか、何人かのチームで踊りあってどっちが強いか決めましょう! って感じかな?」
「……それ、僕だいぶ不利じゃない?」
「で、でもねでもね。ダンスバトルは相手が全くジャンルが違う人だったら、この曲でこんな風に踊るんだって勉強になったり、舞台で踊る練習にもなるし、単純に度胸がついたり。色々自分の実になるんだよ!」
「な、なるほど」
勢いに押され、若干引く僕。今の綾ちゃんはとっても早口だった。
その後も変わらず早口の綾ちゃんにダンスバトルのルールとかを聞かされた。簡単にまとめるとこうだ。
ダンスバトルは大きく分けて、一対一のソロバトル。複数対複数のチームバトル。の二つがある。
ルールはイベントによって変わったりするらしいけど、基本はフロア。所謂踊るエリアの中央で即興のダンスを披露する。後はルーティンと呼ばれる事前に準備した振り付けを踊っても良いそうだ。それに相手がルーティンを披露したから自分も踊らなければならない。と言うわけではないらしい。
更にダンスバトルはラウンド制。特に先攻後攻は決めず、自分と相手は交互に踊り合う。そのラウンド数はイベントによって違う。
最終的にどうやって勝ち負けを決めるのか、それは審査員が良い方に票を入れたり、観客の拍手の大きさなどがあるそうだ。
全体の流れとしては曲が流れ、先攻後攻は決めず、踊るタイミングを見極めてフロア中央で踊る。踊り終えたら、相手と交代。相手が踊り終えた時点で一ラウンドが終わり。もう一ラウンドやる場合は曲を変えて同じように。最後は勝ち負けをジャッジ。ってこと。
「当たり前だけど審査員はいないから今回は特に勝ち負けは関係無し。ラウンド数……透ちゃんは初めてだから、一ラウンドだけにしておこっか」
「わ、わかった」
「ふふ、そんな緊張しないで大丈夫だよ、遊びみたいなものだから、リラックスリラックス」
笑いながら綾ちゃんはスマホを弄る。多分曲を選択しているんだろう。
「曲は動画サイトの誰かのマイリストからランダム。今流れている曲の次の曲がバトル曲。準備はいい?」
僕はうなずく。それを見た綾ちゃんはスマホを操作して次の曲が流れ出した。
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