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「まったく、お前は本当におっちょこちょいなんだから……!」
再会した夫の第一声は、そんなお叱りの言葉だった。
「運転が下手で、おまけに方向音痴な君に車を使わせた俺がバカだったよ」
口では責めながらも、その腕はぎゅっと私を抱きしめてくれる。その懐かしい抱擁に甘えながら、
「えへへ……ごめんねえ」
私は謝った。
「帰る途中で迷い込んだ山道が細くってさ……落ちるかなあと思ってたら、落ちちゃったんだよね……」
「ごめんねじゃないよ、まったく!」
怒りながらも、夫は腕の力を緩めず、その目からは熱い涙がこぼれ落ちる。ごめんねえ、私も謝りながら、涙が溢れるのを感じた。
ここは空の上。地上の人々が天国と呼ぶ場所。40年ぶりに会った夫はおじいさんになってしまっていたけれど、彼は変わらず私を思い続け、寿命で死んだあと、いの一番に会いに来てくれたのだ。
「唯は? 健太は? 元気にしてる? ごめんね、二人ともまだ小さかったのに、大変だったでしょ」
私がそう言うと、
「そのうちあの子たちも来るさ。そしたらきっと君に会いに来る。それまで二人で待っていよう」
「うん」
私はうなずいた。夫がもう決して離すまいというように、私の手を握りしめた。
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