残業部長

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その部長が現れたのは、真夏の暑い夜だった。 クーラーの止まったオフィスで、俺がひとり汗をかいて残業していたとき、ふらっと廊下を通りかかったのだ。 「手伝たろか」 第一声は関西弁だった。 突然話しかけられ、ビクッと顔を上げると、カウンター越しに小柄なおっさんが立っていた。 「手伝たろか」 やさしいカメがいるーー。 それが第一印象だった。 気の抜けたほほえみ顔で、書類の山に埋もれた俺のデスクをじぃっと見ている。 「あの……えっと……」 どこの部署の人だっけ。 誰かわからず返答に困っていると、おっさんはくるりと身を翻し、オフィスの闇へと消えていった。
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