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翌日。
パソコン画面に向かっていると、
横からドサっという書類の音がした。
「鈴木。これ、今日中に目通しておいて」
同僚が大辞典のような資料をデスクに放った。
「鈴木くん。このデータ入力、至急お願い」
「鈴木さん。請求書のチェック、急ぎでお願い
します」
「鈴木くん。この報告書、やり直して」
ドサッ、ドサッ、ドサッーー。
昨日の残業で減らした山が一日で元にもどる。
残業だ。今日も残業。
「はい……ここに積んでおいてください」
もはや諦めの境地になり、俺は天井を仰いだ。
健康に悪い。非常によくない。
働き方改革なら、
この殺人的な業務量をまず改革してくれ……。
ぼやいているうちに定時のチャイムが鳴った。
「鈴木くん。ほら帰るよ」
さっき、定時をまわる直前に、報告書を突っ返してきた課長が、いち早く腰を上げて帰宅の準備をはじめている。
「働き方改革だよ、残業しないで」
「ですが課長、この山を見てください」
「いいから、はい、帰って」
いいって、何が……。
俺は職場を追い出された。
この『未処理』の書類トレーは、俺が残業するから雪崩が起こらずに済んでいるわけで、
明日は明日で仕事が増えるのにーー。
課長が会社を出たのを確認し、俺はコソ泥のような足どりでオフィスに戻った。
「ふぅ……」
パソコンを起動し、再び画面にかじりつく。
「大変ですね、残業」
巡回中の警備員に声をかけられ、
俺は軽く会釈をした。
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