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「これは私がつくったロボット『残業部長くん』です」
「残業……部長くん?」
「私、定年前はロボットの開発技術者をやっておりまして。あまりに残業が大変な社員のみなさんを見かねて、フロアを巡回させていました」
「私、若い頃はサラリーマン時代の経験もありましてね、キャパオーバーの業務量を上司に押しつけられ、毎日残業ばかりさせられていました」
「小池部長というのは……」
「それは実在した私のかつての上司です。小池部長は私を残業地獄から救い出してくれた恩人でして。ほんとうに素晴らしい上司でした。
残業中の部下がいれば、仕事を率先して手伝う。部下が仕事に押しつぶされそうな姿を目にすれば、自分のスキルが役立つならと助けてくださる。
私は申し訳なくて『自分は甘ったれです』と言ったら、上司論や根性論などひとつも振りかざさず『ええねん』『かまへん』と。
その一言に私はどれだけ救われたことか。
上下関係の前に、同じ会社で働く社員同士。協力し合うこと、思いやることを大切にされる。
彼のようにあたたかい上司がこの会社にも必要だと思い、私が現役時代につくった彼を、アメリカにいる私の教え子に改良させましてね、再び稼働させたのです」
「あれ……」
気づくと、部長の姿が消えていた。
業務が途中で投げ出されている。
警備員は顔を青くした。
「まさか……あのプログラムが発動したのか!」
警備員は突然、ホストコンピューターの一台を引っ張り出し、情報分析官さながらの高速タイピングでカタカタとキーボードを打ちだした。
(このおっさんも、経歴が謎すぎる――)
すると、モニター画面が謎のシステムに塗り替わり起動した。
「コード6! コード6!」
警備員は極秘回線か何かなのか、アメリカ人研究員に助けを求めている。
「ザンギョウブチョー、パニックモード! ナウ!」
なんだこの状況は……
国家危機レベルの問題発生なのか。
「何回頼みましたか!」
「え?」
「残業させすぎたらダメなんです、残業部長は!」
警備員は残業部長には使用の注意があるのだといった。
「残業部長はね、十回以上コキ使うと過労ストレスを抱えて『人員削減プログラム』が発動してしまうんだ!」
人員削減プログラム……。
「あなたを残業させていたのは誰ですか」
「誰って……」
「か、課長です」
「課長のもとに向かったのかもしれません。さあ、はやく部長を追って!」
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