友愛ラプソディ

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 ***  僕の名前は、ブラッド・モースタン。父は元々商人で、海を渡ってはるばるこの島国に移民としてやってきたのだ。雨が多いのが祖国に似ていて落ち着くのと、緑が多くて町が綺麗なのがいいと言っていた。僕にはその感覚はわからない。それよりも、町行く人がみんな僕達の容姿を物珍しそうに振り返ることの方に、酷く居心地の悪さを感じていたからだ。  父は良質な果物がたくさん収穫できるこの村を気に入って、此処に永住しようと言い出した。まったく、毎回思いつきで面倒なことを決めてくれるものである。空気が読めない読めないとは言われてきたが、まさかここまでだったとは。村の住人達が、明らかに自分達を歓迎していないことくらい見てとれたというのに。  彼等は露骨に自分達に攻撃してきたわけではなかったが、それでもひどく排他的であるのは見て取れた。僕達が通るといつもじろじろと見て、ひそひそと喋っている姿をよく見かける。学校でも、村の文具店で買い物しても、二言目には同じことを言われるのだ。 『異人さんなのに、日本語がお上手なのね』 『異人さんは、こんなもの食べないんじゃないの?』 『異人のくせに、カッコつけやがって』  異人だからなんだというんだ。僕は昔から非常に喧嘩っぱやかったので、村の子供達とは特によく揉めた。こっちがどれほど苦労してこの国の言葉を勉強したかも知らないくせに。  僕はチビだったけれど腕力はあったので、喧嘩で負けることは殆どなかった。ただし、大抵先生に呼び出されて叱られたし、場合によっては殴った子の親が家に乗り込んでくることもあったので辟易したものである。先に喧嘩を売ってきたのはあっちだ、と言っても聞き入れられることはなかった。僕の苦労をわかってきたのは母さんだけだ。父はまあ――自分達が遠巻きにされている空気にちっとも気づいてないので、“喧嘩に勝ったのか、えらいぞ!”とそのたびむしろ僕を褒めてくれたけれど。それはそれで、悪い気もしなかったけれど。  そう、言うなればただ――悪い要素が重なっただけなのだろう。  僕達が村に来たのは二年前。その頃から、徐々に村の畑の収穫量が落ちていたのだ。翌年は、凶作とまでは行かないまでもかなりの不作で、村長たちが何度も話し合っていたらしいことを知っている。
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