友愛ラプソディ

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 さらに、閉鎖的なこの村の人たちが、異人なんてものを見たことは殆どなかったのである。僕達三人はみんな揃って白い肌、金色の髪、青い目だった。黄色い肌、黒髪、黒い目が当たり前の社会からすれば奇異なものだったのだろう。来た当初から、“何か良くないあやかしが迷い込んだのでは”なんて吹聴する人間がいたことを僕は知っている。  それに加えて、この村の風習だ。この村には昔から奇妙な言い伝えがあったのである。つまり、この村を治めているのは蛇神という神様である、と。神様が気に食わないことがあれば祟りを起こすし、人をあっさりと殺す。だから日頃から神様の洞窟に貢物を欠かせてはいけないし、本当に神様が怒った時は神様が一番喜ぶものを捧げなければいけないとされていたのだ。  ここまで言えばもうわかるだろう。農作物の不作、天候不順。ついでに山崩れまで起きて村の男が三人ばかり死んだとなれば、彼等はこれが蛇神の様の祟りだと決めつけたのだ。それも、僕等が村に来たせいでそれを誘発したのだ、と。 『蛇神様に、捧げものをせねばならぬ!蛇神様に嫁ぐ嫁を見繕うのだ!』  最初は、僕のお母さんが連れて行かれそうになった。でも、お母さんは女性としては力も強いし(そもそも僕達の民族は、この国の人々より全体的に体が大きいのだ。僕はお祖父ちゃんに似てチビだったけれど、腕力はお父さんとお母さんのそれを受け継いでいる)、お父さんもいる。二人は自分達を襲う村人たちに抵抗して、抵抗して――最後は猟銃で、ズドン、とされてしまった。  僕は村人たちが持ち出した最悪の凶器を前に、完全に腰が引けてしまっていたのだ。彼等は僕のことも殺そうとしていた。しかし。 『待て。……よくよく考えれば、蛇神様の嫁はおなごである必要があるか?』  ある有力者が言い出した。確かに、この村では蛇神が怒ると村の娘を嫁がせて、怒りを収めるというやり方をしてきたと。だが、村の娘達は蛇神に嫁いだまま、一度たりとも戻ってきてはいない。そのような恐ろしいことに、可愛い村の我が子らを使うなど本来もってのほかだろう。そもそも子供が増えている様子もないから、ひょっとしたら夫婦とは名ばかりで、実際蛇神は嫁たちをばりばりと頭から喰ってしまっているだけなのではないか、と。  もしそうなら、何もおなごである必要はない。蛇神の腹を満たせる、肉の柔らかそうな子供なら十分喜んでくれる可能性があるのではないかと。
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