友愛ラプソディ

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『もとより、この異人どものせいで村の“気”が乱れ、蛇神様がお怒りになった可能性が高いのだ。なれば、元凶を差し出すことこそ蛇神様がもっともお喜びになることなのではあるまいか?』  なんてご都合主義で、滅茶苦茶な理論なのだろう。僕は唖然とするしかなかった。そしてあっけにとられた僕はそのまま村人たちに簀巻きにされ――この洞窟の入り口に、捨て置かれたというわけである。  縄は力技で解くことができたけれど、人里からこんな離れた山奥に子供一人で放置されて、どうにかできるはずもない。僕はあっさりと諦めた。どうせもう、僕の唯一の理解者である父さんと母さんはもうこの世にいない。僕の故郷は遠い遠い海の向こうで、一人で帰れるはずもない。どうせ行くあてもないなら、このまま蛇神様に喰われて死ぬのも仕方ないことだろう、と。 「はい、以上回想終わり。それが、男の僕が蛇神さまの嫁として、此処に来た理由です」  洞窟の中で、僕は一連の流れを蛇神に説明した。意外にも蛇神は律儀に尻尾をとぐろ巻にしてじっと佇み、最後まで話を黙って聞いてくれた。 「どうせ食べられちゃうだけなら、僕が男でも関係ないでしょ。夫婦なんて、名目上だけのもんだろうし。というわけで、たった今僕が貴方の妻です、どうぞ召し上がれ」 「文脈おかしいだろそれ。男を妻と呼ぶ趣味なんかねーし」 「仕方ないじゃん。大体、貴方が“祟りを鎮めるには嫁を出せ”なんて要求出すから、こんなことになるんだよ?」 「…………」  あれ、と僕は首を捻った。僕が非難めいたことを言うと、彼は頭痛をこらえるように頭に手を置いて呻いたからである。 「あー……うん……まあ、そんなことも言ったり言わなかったりしたわけだが」 「言ったんじゃん」 「仕方ねーだろ、そもそも先に生贄押しつける習慣作りやがったのは村の連中の方なんだよ」 「……どういうこと?」  蛇神は語った。なんでも、大昔はこの洞窟に、神様の祠っぽいものがあったというのだ。神様の姿を誰も見たことはなかったが、この祠に子供を連れてきて生贄を捧げると、飢饉や災害が収まると村人たちは思い込んでいたというのである。だから、何か起きるたび、この洞窟は子供の死体が積み上がることになったのだそうだ――この場所に、そんな“神様”なんていなかったというのに。  ある日土砂が流れ込んだせいで、祠っぽいもの?もなくなってしまい、今はただの洞穴が残るばかりとなっているそうだが。その風習の名残が、今でも残ったままとなっているそうだ。
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