友愛ラプソディ

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「……俺が蛇神とか呼ばれる存在になって、この洞窟に住むようになってだな。その時生贄なんかいらねえよバーカ!って村人の前に姿現して言ったんだ。けど、それがかえってよくなかったのかね。 “神様は本当にいた!”って村は大騒ぎ。洞窟に住んでんのは恐ろしい蛇神だーってよ。で、ますます生贄を運んで来ようとするんで、俺は困り果ててこう言った。“生贄じゃなくて、俺と結婚する嫁を連れてこい!”と」 「何が違うの?」 「昔の生贄の風習がどんなものだったか知りてえかよ。子供の両手両足の指を全部ハサミで切って、腹かっさばいて放置するんだぜ?死ぬだろうが」 「う、うげえ」  訊くんじゃなかった、と僕は青ざめる。痛いなんてもんじゃない。そりゃ、蛇神が喰う前に大抵の生贄は死ぬだろう。嫁を連れてこいと言えば、せめて無傷で置いていくだろうと蛇神は思ったということらしい。 「あいつら、身勝手だよなあ。俺はこの洞窟にいるだけで何もしてねーってのに、何か悪いことが起きるとすーぐ祟りだってことにしやがる。自分らは悪くない、誰かが悪いせいだってすぐ押しつけやがるんだ」 「それは……」  あまりにも、身に覚えがありすぎる話だった。僕達一家は、たまたま村に移り住んだよそ者だったというだけ。たまたま村の人たちと違う容姿であったというだけだ。それなのに、村で起こる多くの災害が自分達の存在を引き金にして起こったということにされてしまった。僕も父も母も、悪いことなんか何もしていなかったというのに。 「わかる、気がする。僕も……死んでほしいって願われて、ここにいるわけだし」  僕がそう言うと、蛇神は“そういうことだと思った”とため息をついた。 「ほんとそれな。あの程度の不作や天候不順なんか数年に一度起きてるし、死人が出たのは“危ねえ”って言われてんのに山に様子を見に行ったバカがいたからだしよ」 「すごい、よく知ってる」 「一応、今の俺は“神様”みたいなもんらしいからな。それくらいの透視能力はあるし、多少天候を左右する力もあるよ。そっちはめんどくせーからやらねーだけで」  今の“俺”。その言葉に、僕はピンと来た。ひょっとして、彼は。 「もしかして、蛇神様も元々は人間?でもって……此処に生贄で捧げられた子供だったりして?」  神様、というわりに随分若い見た目だなとは思ったのだ。しかも、僕とは違うけれど、彼も青い目を持っている。それであの閉鎖的な村で迫害されて、生贄に選ばれるなんてことがあってもおかしくないのではないか。
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