ニライカナイのような

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ニライカナイのような

「ねぇ、私達死ぬのかしら」 「どうやらそうみたいね」  星の光も薄れ空が白み始める夜明け前の浜辺、寄るでもなく返るでもない穏やかな波打ち際。生温い感覚に脚を、浮遊感に身を任せる少女はぼんやりと空を見上げていた。少女の肩から腰にかけては深い切り傷……一目で致命傷だと分かるような傷跡が、地割れのように広がっていた。傍らに佇むもう一人の少女の身体にも、全く同じ痕跡が残されていた。にも関わらず、彼女は悠然と立ち、笑みさえ浮かべて横たわる少女を見下ろしていた。  自らの死期を悟った老猫のようだわ、と一人が言う。 「無様ね」 「……そうね」  息も絶え絶えの少女が一拍の間を空けて答える。それが身体が作り出したものなのか、考えた末のものなのかは分からない。彼女の視点は定まらず、虚ろに開いたままだ。彼女は目と同じように口を閉じることも出来ず、隙間風のような音を吐き出すばかりであった。 「でも、あの人を守れたなら」  勲章なの、と聞き取れるか聞き取れないかの声で呟いた。その傷は未だ塞がっていない。血潮は体外へと流れ出し、少女の肢体は珊瑚のように桃色から白色へと移り変わっていく。命を奪う。死を与える。それにも関わらずその傷は少女に痛みを与えることはない。彼女の痛みが足先から沁み出し海へと溶けていったかのように。少女の痛覚は最早機能を失っていた。
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