ニライカナイのような

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「……ねぇ、死んだらどうなるの」  もしも死が何もかもを無に帰してしまうのなら、青年を想う気持ちさえも無くなってしまうなら。それだけが、少女に恐怖を与えた。縋るような目を、同じ顔の少女に向けた。  その瞳を見つめ返しながら、彼女はしっかりとした口調で言葉を紡ぐ。 「私達は還るだけよ、生命を育んだ海へ。大いなる命の潮流へ。私達の魂はまた何処かの岸辺へ辿り着くわ。潮が流れるように。潮が満ちるように」  彼女は柔らかな笑みを浮かべ、少女を見つめる。少女がそれを目にしたのかは、分からない。ただ、少女も穏やかな表情をして目を閉じる。 「想像して。青い海は始まりの朝の光を浴びて虹色に光る。七色の光を抱いた透明の中に、私達は居るの。その姿は人の形をしてはいなくて、身を投げて泡になった人魚のように、小さな小さな泡になって漂っているの。やがてその泡は混ざり合って一つの形を作っていくわ。それが完成した時、私達はまたこの世界に産まれ落ちるの。……またいつか出会えるわ。私も、あなたも。そしてあの人も」  頬を生温い何かが伝うのを感じた。いつの間にか月が水平線の彼方へと沈み、暖かな光が空を照らし始めた。  ああ、夜明けが来る。やがて光は海を、少女の身体を包み込み、白く輝かせ、少女と海の境界線を失くしていく。  暖かな光の中で、少女達は還る。幾多の生命を生み、死者の魂をも飲み込み、新たな生命へと変える、大いなる海へと。
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