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たくさんの中のひとり。
「桐山くんてさ、確か陸上部だったよね。私、噂で聞いたんだけど。桐山くんって後輩から人気あるらしいじゃん。1年女子、部活の時にキャーキャー騒いでるみたいだよ。けっこうイケメンだもんねー。さっき廊下で呼び止められてドキッとしちゃったよ。まぁ、お目当ては早紀だったけど。もう、いいないいな!お互い美男美女の人気者同士でお似合いじゃんっ。で、どうすんの⁉︎なんて返事すんの⁉︎」
すごい勢いで一気にしゃべった知里ちゃんが、目を輝かせながら早紀ちゃんを見る。
「どうもこうも、まだわかんないじゃん。他の用かもしれないし」
「まだそんなこと言ってるぅー。告白以外考えられないって。あ、ちょっと。まさかすっぽかすつもりじゃないでしょーね?」
「すっぽかさないって。これから行ってくるよ」
早紀ちゃんが、食べ終わったお弁当箱をしまいながら席を立つ。
そして。
「じゃ、ちょっと行ってくるわ」
そう言って教室えを出て行った。
早紀ちゃん、桐山くんに告白されるんだぁ。
すごいなぁ。
私が目を輝かせていると。
「ねね、かおり」
お昼仕様で私と向かい合わせにしていた早紀ちゃんの席に、知里ちゃんが素早く座った。
そして。
「早紀って、誰か好きな人いるのっ?」
身を乗り出して私に質問してきた。
早紀ちゃんの好きな人ーーーー。
1年の時、3人くらいクラスの人に告白されたっていう話は聞いたことがある。
でもそれは早紀ちゃんのことを好きだった人の話で、早紀ちゃんの好きな人の話ではないしな。
しかも、その告白も『今はそういう気がないからごめんなさい』で終わったみたいだから、その時はたぶん他に好きな人とかもいなかったと思うんだよね。
早紀ちゃんと仲良くなってだいぶ経つけど、今のところそういう話は聞いてないな。
「うーん……。今は特にいないんじゃないかなぁ」
もし好きな人がいたら、早紀ちゃんならきっと教えてくれると思うんだ。
こっそり……でも嬉しそうに。
そんな秘密の話もできる日も、そのうち来るのかな。
楽しみだな。
「そっかー。いないのかー。確かに早紀のそういう話、全然聞いたことないかも。告白とかもされてるのに、ぜーんぶフっちゃってるしね。早紀ってば贅沢者っ。その気になればすーぐ彼氏だってできちゃうのに」
「モテるもんね、早紀ちゃん」
私が笑顔で言うと。
「かおりは?」
「え?」
知里ちゃんがニコッとしながら、私の顔を覗き込んできた。
「好きな人とかいないの?」
「残念ながらいないなぁ……。っていうか、私には恋は無理かも……」
ちょっと苦笑いすると。
「そんなこと言ってちゃダメダメー。かおりはカワイイんだから。もったいないよー」
知里ちゃんが真顔で私に言った。
そ、そんなっ。
「カ、カワイイだなんて、めめめ、めっそうもない!」
慌ててブンブン手を振る。
「そんなことないって、ホント。もっと自分に自信持ってガンガンいっちゃいなよ」
にっこり笑う知里ちゃん。
ガ、ガンガン……。
と、とんでもない。
目眩してきそう……。
「ち、知里ちゃんは?」
私が聞くと。
「あたし?あたしはもちろん有沢先輩」
ああ、カッコイイって前から言ってたもんね。
「もぉ、すっごいカッコイイの!めっちゃ優しいし」
知里ちゃんの目がうっとりハートマークになってる。
ふふふ、ホントに好きなんだね。
「がんばってね、知里ちゃん」
「ありがとう、かおり。でもさぁ、先輩のファン多いんだよねぇ。バスケ部のキャプテンやってて目立つし。もっともっとファンの子達増えてきそうじゃない?ライバル多過ぎて、なんかちょっと高嶺の花……カンジ」
知里ちゃんがため息をついた。
わかるな……その気持ち。
私が前に憧れてた人も、みんなの人気者で。
彼のことを好きな女の子はいっぱいいたの。
たくさんの中のひとり。
言ってしまえば、私なんて〝たくさん〟のひと言で片づいちゃうような全く気にもされない存在だった。
ううん、そのひと言にすらに入っていなかったかもしれない。
きっと……名前も顔も、知られてなかったんだろうな……。
なんだか急に寂しい気持ちになってきた。
「でも。知里ちゃん、ファイト」
応援しちゃう。
自分がなにもできないから。
友達にはがんばってほしいよ。
「うんっ。かおりもね」
知里ちゃんが嬉しそうに笑った。
「ところで。早紀、どうなったかなぁ」
知里ちゃんの言葉に、私は早紀ちゃんが出て行ったドアの方を見た。
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