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「おじいさん、何で皆死んでしまったの?」
薄暗い小屋の中、少女の甲高い声が響いた。しかしその声に悲しみは含まれておらず、幼子が日々の不思議を聞くのと同じ調子であった。少女は物心ついた頃からまともに小屋を出た事が無かったのだ。「あぁ、前にも話したろう、ウイルスが死を運んできたのさ。沢山の人間が死んだよ。勿論、おじいさんの友達も家族も皆ね。でもおじいさんは運が良かった。どうやら寒い山の上ではウイルスも凍えちまうらしい。」腕を組み、ガチガチ歯を鳴らすジェスチャーをしながらそう言うと、少女はしっしっ、と足をぱたつかせながら笑った。
「じゃあ狩りに行ってくるよ。太陽が山に隠れる頃に帰るからね。」烏帽子を被り直しながらおじいさんが言った。「あたしも付いてっちゃだめ?」口をとがらせながら言う少女に「ダメだ。絶対に。そもそもこんなに寒い山へ出てしまっては凍えてしまう。お前には上等な服の用意がないんだ。申し訳ないと思ってる。しかし、お前の為なんだ。」老人の擦れたお下がりを着る少女に返す言葉は無かった。また以前忠告を破り外へ出た時の凍傷の傷もまだ癒え切っていなかった。
少女は黙っておじいさんの背中を見送る。
おじいさんは雪道を黙々と歩き、太陽が真上に差し掛かる頃山を下りることが出来た。街で芋や干し肉を買う。尋ね人掲示板にある色褪せた少女の写真がじっと老人を見据えていた。
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