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浦和君は低い声で一言そう言った。横目でジロリと私を見て、その視線はすぐにフイッと逸らされる。
…何よ、感じ悪い。
相変わらずの態度に、忘れようと蓋をしてた苦い思い出がほんの少しだけ、蘇る。
私は、この人のことが。
ずっと、好きだったから。
「あまねぇ!どこぉー!周いないと寂しいよぉー!」
座敷の奥から、酔っ払ったミカの声。自分が何しようとしてたのかを、ようやく思い出した。
「ミカごめん!ハンカチ濡らしてすぐ戻ってくるから!」
ミカにも聞こえるよう大声でそう言って、立ち上がり洗面所へと急いだ。
「ハハッ、相変わらずだな中川は」
「昔っから世話焼きっつーか、真面目の塊みたいなヤツだもんな」
「美人だし性格もいいんだけど、ずっと一緒はしんどそう」
「かといってワンナイトお願いしたらあそこ蹴られそうだしな」
「アハハッ!」
「…」
さっきぶつかった浦和君やその男子達の間でそんな会話が繰り広げられてることなんて、洗面所でせっせとハンカチを水に濡らしてる私には知る由もなかった。
「あららぁ、ミカ寝ちゃってるじゃん」
「しかも見て、周の膝枕」
「あいっかわらずこの子は周大好きなんだから」
散々グチッて泣いて飲み倒して、電池が切れたようにミカは寝てしまった。
「可哀想に」
その元カレのことを、本気でブン殴ってやりたいと思う。
人のことをこんな風に傷つけて、罪悪感で眠れなくなったりしないんだろうか。
いや、そういう男はきっとしないんだろうな。ミカはこんなに傷ついてるのに、自分だけサッパリ忘れてきっと次に進んでる。
そういう人間って、吐き気がするくらい嫌いだ。
ーー自分だけが正しいと思ってるお前みたいなヤツ、俺は嫌いだ
何で今、思い出しちゃうんだろう。
昔、浦和君から言われたセリフを。
私の膝で小さく寝息をたてるミカの頭にそっと触れながら、衝動的に彼の方に向けたくなる視線をグッと堪えた。
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