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「う、浦和く…」
心臓、止まるかと思った。
五月の夜はまだまだ暑さとは程遠いはずなのに、急に体が熱を持ちはじめる。
「…」
「あ、ありがとう。助かった」
ぎこちないながらも笑顔を向けたけど、当然浦和君は同じようには返してくれなくて。
ただジッと私の瞳を見つめるから、どうしたらいいのか分からなくなった。
「え…っと。久しぶり、だね」
「だな」
よかった。答えてはくれるみたい。
彼の手はもうとっくに私の肩から離れてるのに、まだ触られてるみたいにジンジンしてる。
「浦和君は、二次会行くの?」
「いや。明日勤務だから」
「いっちゃんが言ってたけど、浦和君警察官になったんだってね。凄いな」
「別に」
感情を読み取れない声色。私なんかと話したくないのかなと思ったけど、意外にもストンと私の横に腰掛けた。
あれ…どっか行かないんだ。
戸惑い半分、気不味い半分。
さっきまで騒がしく感じてた周りが、急に静かになったような不思議な錯覚を覚えた。
「似合わないって、思ってる?」
「えっ?」
「俺が、警察官なんて」
チラッと、浦和君に視線を向ける。端正で男らしい、綺麗な横顔。ふいに中学の頃の彼の姿と重なって、恥ずかしくなってすぐに逸らした。
「実は、意外としっくりきてる」
「…何で?」
「さぁ?何となく」
「何だそれ」
「アハハ」
あ、私笑えてる。
彼から拒絶されたあの時は、自分でも笑えるくらい泣いた。
もう二度と、会いたくないって思った。
だけどやっぱり、顔を見ると心臓が反応してしまう。
甘さなんてひとつもなかった、苦い苦い私の初恋の思い出。
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