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「動けそうな人達はあそこに座ってもらっています。そうじゃない人は、私の判断で勝手に治療したり触ったりはしていません。あ、それから…」
プロの邪魔はしないように、聞かれたことにだけ答えた。もう、これ以上私にできることは何もない。
まだ、心臓がドキドキいってる…
交通事故の現場に遭遇したのは、これで二回目だけど。普段は聞かないような音や、荒れた周囲や、誰かの呻き声は、凄く怖い。
運転手含め、巻き込まれて怪我をした人達も見た限りでは命に別状はなさそうで。
ホッと胸を撫で下ろして隅に寄ろうとした途端、緊張の糸が切れたのかフラッとよろめいてしまった。
「わ…っ」
瞬間、ガシッと誰かの力強い腕に体を支えられる。
「大丈夫か、中川」
「っ」
この声、もしかして……
「うら、わ、くん」
真剣な眼差しで私を見下ろすのは、警察官の制服に身を包んだ浦和君だった。
「ど、してここに」
「通報受けたから。俺、ここの管轄の地域課」
「あ、あの…」
「そこ、座れる?」
そう問いかけられて初めて、自分が彼の腕にしっかりと抱き止められてる状態だってことに気付く。
「あ、ご、ごめ」
「いいから、座って」
大人しく座ると、浦和君はゆっくり私から手を離した。
「中川も、救急車乗って」
「え!わ、私は別に」
「足、引きずってるように見えたけど」
「っ」
図星をつかれて、思わず言葉に詰まる。神宮さんの言うこと聞かずに勝手に飛び出したのに、挙句怪我するなんてホント最悪だ。
誰にも、言わないつもりだったのに。
「救急車、乗ろう」
「わ、私は」
「中川。頼むから」
「は、はい」
それしか、言えなかった。鋭い瞳の奥、心配そうに私を見る浦和君に、これ以上迷惑はかけられないって思ったから。
彼に支えられるがまま、私は何台も止まっていたうちの一台に乗せてもらった。
「あ、ありがとう…っ」
浦和君は少しだけ笑って、片手を上げるとまたすぐに現場へと消えていく。
さっきとは違う心臓の煩さに、私は無意識のうちに頬っぺたに手を当てた。
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