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事務所に移動した後も、何かにつけてその女性に掴みかかろうとする男を、何とか宥める。
ウチのドラッグストアと提携してる警備会社にも連絡したけど、多分警察の方が来るの早いだろう。
「お、落ち着いてください」
ここの店長である寺田さんは、三十代後半のヒョロッとした痩せ型の男性。
凄く優しくて働きやすいんだけど、こういう時は正直あんまり頼りにならない。
ここ、駅前だし遅くまで開いてるからこういうお客さん結構いるんだよね。
今日みたいに、夕方から飲んでるアホなおじさんは珍しいけど。
「さっきからアンタ、目が気に食わねぇんだよなぁ」
お子さんを抱いた女性を庇っていた私に、急に矛先が向く。
「なぁ、俺のことバカにしてんだろ?」
「そんな、バカにだなんて」
「いーや、してるな。生意気な面してさぁ。アンタみたいな女、腹立つんだよなぁ俺は」
だからなんだよ、この酔っ払い。
「私はただ、この場が穏便に収まるよう尽力しているだけです」
「世の中、女がでしゃばるようになってねぇんだよ」
「私は店員ですので。店内で起こった出来事を無視することはできません」
「あぁ!?あぁ言えばこう言うなぁお前!」
怒りに任せて立ち上がった勢いで、パイプ椅子が音を立てて倒れた。
「おっ、お客様暴力はやめてくださいっ!」
寺田店長が、慌てた声を出す。彼なりの大声なんだろうけど、ごめんなさい店長。ちょっと迫力ないです。
「手を出せば、本当に傷害罪に当たりますよ」
「なんだぁ?コラ」
どうせ、そんな勇気ないくせに。
今にも殴りかかってきそうな男から、私は一瞬たりとも視線を逸らさなかった。
「すいません。遅くなりました」
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